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【お茶と文学-ベトナム編】コーヒーとバオ・ニン『戦争の悲しみ』

コロナで旅行に行けないので、「もし世界一周をやるならこういうルートでやるんだけどな〜」を妄想しながら、旅先の文学と料理(が、できないので飲み物)を楽しむ自分内企画第4弾。この妄想世界一周が終わるのと無事に海外旅行ができる日々が再開するの、どっちが早いかな!? という感じになってきた。私はとっととワクチン打って、接種したよ証みたいなのをもらって、旅に出たいです。

初回は韓国、第2回目はチベット、第3回目はインドに行って、第4回目はベトナムへ。インドのニューデリー空港からベトナムのハノイ・ノイバイ空港まで、15時間弱かかり2万円だそうです。安い! 途中でバンコクのスワンナプーム空港を経由。

そんなハノイに到着した気分でベトナムコーヒーを片手に読むバオ・ニン『戦争の悲しみ』。フランス式のフィルターで抽出してコンデンスミルクを……といきたいところだけど、面倒なのでAmazonでインスタントコーヒーを買いました。確かにちょっと甘い気はしたけど、日本の普通のミルク入りインスタントコーヒーと、あんまり味の違いがわからなかったかも……?

この自分内企画、「私がエスニックな料理作れないから」「仕方なく」飲み物で代用しているわけだけど、飲み物でも十分、お国柄がわかって面白い。

話を前回のインドに戻すと、インドでは「チャイ」って、紅茶とミルクと砂糖を一緒に煮込んだミルクティーを指している。でも、パキスタンの「チャイ」はストレートティーであり、ミルクは普通入れないんだって。アフガニスタンに行くと、ポット1杯を1人分として、ポットに砂糖を入れる。さらに西へ進むと、イランでは紅茶に砂糖を直接入れず、角砂糖をかじりながら飲むんだそう。日本だと「紅茶」というと英国式で、「チャイ」というとインド式のスパイスが効いてる系の飲み物を想像するけど、現地のチャイは普通のミルクティー。高いところから注ぎ、泡立たせるとさらにインド風(と、いう理解を私はしている)。まあ、今回飲むのはティーではなくコーヒーだけど。

チャイ

さて、『戦争の悲しみ』は、タイトルからわかるとおりベトナム戦争について書かれた小説だ。だけど歴史小説ではなく、もっと個人的な、作者であるバオ・ニンが主人公のキエンに重なる、私小説である。キエンは北ベトナムの兵士として従軍し、戦後はハノイに帰還して、小説を書こうとする。だけど、何度も何度も、戦地での記憶がフラッシュバックしてしまう。戦争が終われば、それだけですべてが終わるわけではない。まあ、書くと当たり前なんだけど……目の前に平和が訪れても、何度も何度も、心は戦地へと還っていってしまうのだ。戦争を知らない身から無責任なことをいうと、タイトルからして「ストレートすぎないか?」と思ったりもするんだけど、わざわざ変化球を投げる余裕などまったくないことが、文章の端々から伝わってきてしまう。

戦争のことを忘れるのは難しい。いつになったら俺の心は安らぐのか。戦争の記憶という心の拘束衣から、いつ俺は解放されるのか。戦争は俺の心に深浅さまざまの傷を残した。それらの傷は、戦後一年経った今も疼いている。たぶん十年経っても二十年経っても疼き続けるだろう。

『暗夜/戦争の悲しみ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-6)』(p.224)

この小説を読みながら私は、自分がカンボジアを旅したときのことをなんとなく思い出していた。なかでも、プノンペンの、キリング・フィールドを訪れたときのことを。地理的に近い地域なので、文章から伝わるむあっとする湿気の感じとかが、私の脳みそを刺激したとだと思う。キリング・フィールドとは、ポル・ポト政権率いるクメール・ルージュが民衆の大量虐殺を行った場所で、現在は慰霊塔が建っている。

(昔のブログなので恥ずかしいのだが、当時書いたやつ)

ここで、本当にたくさんの人が殺された。なので、今でも雨が降ると、地面から人骨が出てきて、それをスタッフの人が毎回片付けているらしい。現地で話を聞いたときは「ふーん」と思っただけだったんだけど、日本に帰ってから、雨の日に自分がキリング・フィールドで人骨を拾っている夢を見てしまって、そっちのほうがけっこうショックだったんだよね。普段の私の夢はいかにも夢らしい荒唐無稽さに溢れているのに、この夢は妙に静かでリアリティがあって、なんというか、あれは、土地の霊に見させられた夢なんじゃないか、と今でも思っている。「忘れるなよ」と言われた気がしたので、忘れないでいる。

もちろん、そんなツーリストの「フラッシュバック」と、本物のベトナム戦争を体験した人の「フラッシュバック」を比べようもないわけだけど、ベトナムとカンボジアの距離が近いことを、文章によって思い出させられるというのはなかなかいい体験だった。優れた文学には、文章には、土地の息遣いがある。まだ旅行には行けないので、せめてその土地の息遣いだけでも感じようと、私は本のページをめくっている。

まあただ、私アジアって韓国とカンボジアとインドネシアしか行ったことがなくて、ぶっちゃけあまり解像度が高くないので、タイにもベトナムにもインドにもラオスにもミャンマーにもチベットにもネパールにも行って、もっとこのあたりの地域について詳しくなりたいなと思う。

……と、いいつつ次回第5弾ではもうアジア圏を脱出する予定なのだが、意外としぶといこの企画、のんびり続きます。


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