小説冒頭『それでも僕は離脱する』
『100%保証 あなたの未来に永遠のパートナーを 永恋Eren』
仕事も軌道に乗ってきたし友達の式にも呼ばれたし、真面目に結婚でも考えようかと思っていた矢先。スクロールさせた指の先。
笑えるくらい嘘くさい婚活アプリ。
それでもふと、試してみたくなった。
魚心に水心、ほんの出来心。
僕は飲み屋で生と唐揚げを流し込みながら永恋をDLした。
「特技、幽体離脱っと」
こんなふざけた事を書く奴いるか?
でも、これこそ本音。
信じてくれるコが本当にいるのならそれこそ永遠ものだ。
最初の同棲彼女、まじヤバイとウケてたのに実際見たら荷物をまとめて逃げてった。真夜中に僕が二人いるのはさすがにホラー?
いつでもどこでも会えるって喜んでた遠距離彼女。離脱して会いに行ったら浮気してた。お互いに見えないフリしてればまだ続いてたのに。
過去の彼女に未練を飛ばす間もなく、チリンと軽快な音が鳴ってスマホにハートが浮かんだ。永恋の通知だ。
もう成立?
まさかなとは思いつつ指は勝手にタップしてた。
『永恋と会いますか? Yes?』
選択肢が一つだけ。
嘘だろ、とつっこむ声に「初めまして」の声が重なった。
「飛雄さん、でしょ?」
あぶなっ。
返事のかわりに心臓が飛び出すかと思った。
今まで出会ったどのコよりも好みすぎた。
顔も声も表情も全部。
「特技見て飛んできたの。私、永恋」
「飛んで、ってもしかして」
「そう、実体は博多。東京、遠いね」
「永恋て君の名前だったの?」
「あら、みんなそうよ」
みんなって、登録者の名前がみんな永恋なのか?
しまった、デートアプリだったのか。位置情報で手近の女の子をあてがう系の。
「それで、あんなこと書いていつまで飛ぶつもりなの? もう君の時間あんまり残ってないじゃない。無駄にやりすぎ、もったいないなぁ」
「何、それどういう」
ほら、と彼女が見せてくれたのは『残4018』と表示した日数計だった。
【続く】