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【商業BL感想】キーリングロック【ネタバレ有】

今日はymz先生作 キーリングロック について

※盛大なネタバレあります。気をつけて下さい。

あらすじ
「フリーターの唯は、ボロボロの状態で道に落ちている男を見つけた。不思議な魅力を持つ男・十識を放っておけない唯は、彼を家まで送り届ける。十識に振り回されつつ、彼を受け入れる唯だったが、朝起きるとドアに鍵をかけられ、外に出られなくなっていた。「俺、監禁が趣味なの」と微笑む十識。これは監禁か、それとも…。日常と非日常の狭間で揺れ動くセンシティブ・ラブ!」(作品紹介から引用)

これを見ただけだと、「監禁!?もしやハードな話なのでは・・」と思うかもしれないんですが、実際は人間の繊細な心の動きを描いた優しいお話です。緩やかな監禁・・みたいな・・
(性的な描写が一切ありませんのでそう言ったシーンが苦手な方も安心です。)

1人目の主人公、小説家の十識君は「心に負担がかかって仕方ない状況の方がいい作品が作れる」という。
十識君は人付き合いに神経質な性格な故、心に負荷がかかった状態で窮屈な所を絞りきって文章を書くのだそう。

なんだろう・・これ「めっちゃわかる〜〜〜〜〜〜」ってなったんですよね。
私は心に負担がかかった時ほど「いい作品が作れる」と言うわけではないのですが、心に負担がかかっていないと絵が描けないという状況が続いておりまして。
その負担っていうのは仕事のストレスだったり・忙しさだったり・納品締め切り・だったり。(余談ですが絵に関して私はとてつもないデッドライン症候群です)

十識君は少し人よりも繊細な部分があり、引っ込み思案な事も手伝ってか幼少期に周りに溶け込めず、「顔色ばかり気にしてたらひとりになったよ」と語っています。
私自身も大人になってから人の顔色を伺い過ぎてしまうようになり十識君の気持ちは分からない事もないのです。(だからと言って他人を「監禁しよう」と思った事はありませんが・・笑)
これは私の勝手な想像でしかないのですが、十識君は「1つくれるなら全部頂戴、全部くれないならお前なんかいらない」っていう少し極端な部分があって、相手を試すため&心の穴を埋める手段として「監禁」という方法を取っていたのかなぁと。
ちなみに監禁の見返りとしては「衣食住、俺が保証する。暴力も命令もしない。欲しいものがあれば買ってあげる」という事を語っています。

もう1人の主人公、唯君について。
唯君は時々派遣のバイトをしながら細々と暮らしている。
とある雪の降る夜に路上で「疲れた・・・死ぬかあ・・」とつぶやく十識君を放っておけず自宅まで送り届ける所から物語が始まります。
そこから奇妙な共同生活が始まるのですが、唯君は監禁される事について「衣食住が約束された生活が嫌なわけがない」「外に出てしたいこともない」とすんなり受け入れるのです。
上記からも分かるように唯君は一見無気力な所があり、執着やこだわりといった感情が少ないように見えます。

両者の利が一致した緩やかな監禁生活が崩れ始めたのは、唯が今は亡き友人に穴を開けてもらった「ピアス」がきっかけでした。

自分の付けているピアスを十識君に触られてしまい、それを拒んだ唯君。ピアスを触られる事を拒んだ唯君に対して十識君は自分が拒絶されたかのように感じたようで「ピアスが捨てられないのなら出て行け。」と唯君に伝えます。
先述した通り唯君がつけているピアスは「今は亡き友人に穴を開けてもらったもの」(恐らくピアス自体も友人から貰ったものと思われる)
亡き友人の名は徳富君と言って、唯君の耳に穴を開けた翌日から学校に来なくなり、厳しい家庭環境を理由に自死を選んだのです。
ピアスは徳富君と唯君にとっての最後の繋がり。
仲が良かった徳富君の本音を拾えなかった事に対して唯君はずっと後悔してきました。
このエピソードから唯君が十識君を見捨てずに、すんなり監禁生活を受け入れた理由が分かりますよね。もう他人の気持ちを取りこぼしたくなかったんだなと思います。
最初に感じた唯君の「執着やこだわりがなさそう」という印象ですが、物語が進むにつれてどんどん変わっていきました。

ピアスによって関係が崩れ始めた2人がその後どうやって寄り添っていくのかが描かれたクライマックスは是非是非漫画を買って読んでみて下さい・・!
描き下ろしは「ピアス」に関するお話であり、やっと2人の心の穴が埋まったんだな・・!と感じるような素敵なエピソードでした。

心に穴が空いたまま大人になりきれずにいたもの同士が出会って、少しずつお互いの心を補完していく様が丁寧に描かれている素敵なお話でした。

CYON

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