見出し画像

色川武大「唄えば天国ジャズソング」の第2章は"イエス・サー・ザッツ・マイ・ベイビー"

Yes Sir,That's My Baby!

標題曲は「イエス・サー・ザッツ・マイ・ベイビー」だが、冒頭、「ティペラリーの歌=遥かなティペラリー(It's a Long Way to Tipperary)」にふれており、ポピュラーヒットな由。それはまあ色川御大など戦前派に於いてで(ポピュラーとはいえ、100年以上も昔の曲)、このデジタル渡世な御時世では知らない方も多いのではあるまいか?

ジョン・マコーマック[John Mccormack]のバージョンで1914年の録音(リマスターかな?)、この方がこの曲では元祖歌手となるようだ。

評伝では、行進曲(ある種の軍歌?)として広まったそうで、ティペラリーは街の名称=目指せティペラリー! ただ、そこは、いわゆる特飲街(あくまでも当時の話)。つまり色川御大曰く、いわば「目指せ吉原! …それ故か、当初、女性シンガーのフローリー・フォード[Florrie Forde]はこの曲を嫌ったという逸話も。

(81年の映画「サザン・コンフォート(Southern Comfort)」を連想した。大筋は、小隊の行軍訓練、その目的地には外娼が待ってるゼ! それ目当てに過酷なルートに挑むという。この映画では、フィーチャーされたバルファ・ブラザーズ[The Balfa Brothers]演奏の「Parlez nous a boire」にやられた方も多いのでは?)

さて標題曲、1925年のヒット曲だそうで、ジーグフェルド・フォリーズ(Ziegfeld Follies)でエディ・カンター[Eddie Cantor]が唄ったことに端を発する云々。エディ・カンターは、榎本健一(エノケン)など草創期日本のボードビリアンが手本にした(スタイルを真似た)ことでも知られている。そのエディ・カンターで「イエス・サー・ザッツ・マイ・ベイビー」。

この公式音源、ルーツは1941年の録音だと思う(CDに例えてアルバム"Makin' Whoopee With "Banjo Eyes""にも収録されている。Living Eraの"AJA 5357"で、Living Eraは復刻シリーズでは馴染みのレーベル)。

エディ・カンターによる他バージョンでは、例えば1957年録音のザ・ビル・トンプソン・シンガーズ[The Bill Thompson Singers]によるコーラスアレンジで、1964年の追悼盤"Eddie Cantor Sings,Ida,Sweet As Apple Cider(RCA Camden CAL 870)"にも収録されている。このビル・トンプソンってディズニー声優の方かなぁ?

(ボーカルにはルーリー・ジーン・ノーマン[Loulie Jean Norman]も参加しており、ルーリー・ジーン・ノーマンとは、あの「スタートレック(Star Trek)」のTV版、最初期テーマのボーカルを務めた女性歌手。当初、不思議な唄と云われた幻的なバージョンで、1980年のアルバム"Inside Star Trek(CBS/Sony 25AP 1864)"に唯一収録が)

先に1925年のヒット云々、当時では、ジーン・オースティン[Gene Austin]によるバージョンもポピュラーだそうで。

これもCDでは、アルバム"The Voice Of The Southland"にも収録が(Retrospective Recordsの"RTR 4370"で、このRetrospective Recordsも復刻シリーズでは馴染みのレーベル)。

それでジーン・オースティン版、珍妙なスキャットが際立つ。そのスキャットとウクレレ伴奏はビリー・カーペンター[Billy"Uke"Carpenter]で、この方には謎が。ビリー・コステロ[Billy Costello]変名説が有力で、ビリー・コステロとはアニメ「ポパイ(Popeye the Sailor)」の声優。そこに興味があればUS版ポパイの声と、このスキャットを聴き比べてみるのも一興かと。

標題曲に戻り、これは作曲家ウォルター・ドナルドソン[Walter Donaldson]と作詞家ガス・カーン[Gus Kahn]による作品で、エディ・カンターの持ち唄では、同チーム作でより知られていのは「メイキン・ウーピー(Makin' Whoopee)」になるだろう。

ではエディ・カンターで(これも先に紹介のCD盤にも入ってる、この音源も、やはりルーツは1941年の録音だと思う)。

この曲にも第2章ではふれており、そもそもは1928年のミュージカル「ウーピー(Whoopee)」のテーマだそうで、オリジナルのアルバムとしては、1978年のRCA盤"DPM1 0349"に復刻音源が。このアルバムというか舞台には、いわゆる"America's sweetheart of song"とされるルース・エッティング[Ruth Etting]も参加…続きます。

(紹介の公式動画はYouTubeの共有機能を利用しています)

第1回[色川武大のジャズ「唄えば天国ジャズソング第1章」からフレッド・アステア]
第3回[「唄えば天国ジャズソング」第2章の続き(ルース・エッティングとヘレン隅田)]