アラサー女子が60歳のおっちゃんと結婚する理由

私にはパートナーがいる。
同じデイケアで出会ったアルコール依存症の人。
ちなみに私にも依存症は5つある。
クロスアディクション(複数の依存症を持つこと)は最近若い人に多いらしい。

デイケアのプログラムで仮定の話について意見を考えるものがあった時、その話の題材が再婚したい人がいる、相手の子供は反対している、結局別れてしまって一番可哀想なのは誰か、そんな感じの題材だった。
私と仲のいい年下の2人と彼が同じグループ。
私は以前母親が再婚しようとしていた時期があって、それを受け入れたくはなかったと話した。それに彼も同調し、自分の親が再婚した時も嫌だったし、逆に自分が再婚した時の相手の子供達も大歓迎といった反応ではなかったと話した。
結局そのプログラムで何をディベートしたのかは覚えていないけれど、彼にはなんとなく親近感が沸いた。

彼は車を持っていて、何の気なしにドライブに連れて行って欲しいと行った。
別に行ってもいいと言われて、嬉しかった。
今思い返せばデイケアスタッフ達が仕組んだとしか思えないくらい、スタッフ達はなにかにつけて私を焚きつけるので、困ってしまった。
でも一緒にいると安心するし、音楽は好きだしエヴァファンで、年齢差も感じない人だなと、惹かれていったのは事実。

高校に入って、会える日が減ったので夏休みには思いっきり甘えた。
その頃には普通に手を繋ぐし、お願いしたらハグも出来た。
まだ2人で遠出する事はなかったけれど、近場の買い物には行ったりしていた。
秋になって喘息がひどくなり、恩人であるデイケアスタッフさんも亡くなって、私はかなり気落ちしていた。
前にも彼の家を探して訪ねたけど、その時は出なかったのですぐに帰った。だけどその日は帰ってくるまで待って、もし帰りなと言われたら素直に帰ればいい、そうして待っていた。
帰ってきた彼は「結局学校休んだって? まあ入りなよ」と、家に入れてくれた。怒られると思った私は内心驚いた。落ち着いたらすぐに帰ると話したけれど、好きなだけいてもいいと言う。
その夜、付き合うのかどうなのかと、話をした。
 彼は年齢のこともあるので、私に淋しい思いやこの先の負担をかけるのは避けたいと考えていたらしいが、実は数年前にまだ病状が酷かった時の私を見掛けて、この子なんとかしたいと思ったと話してくれた。
私は全くそんなことは覚えてないので、すごく驚いたし嬉しかった。
結局付き合ってみようか、と交際が始まった。
不思議なことに、ケンカらしい事はほとんど起きない。というか年齢差があるので彼がとても理性的で感情的になっている私を落ち着けるのが上手い。だから精神的に辛くなってパニックになっても前のように二時間も泣き続ける事は無くなったし、話を聞いてもらえることで安心する。

年末から、ゆっくり家で過ごしているうちに、彼は元々住んでいた家に帰るのはめんどくさいと言った。
それには色々事情があるけど、私はそれも納得した上で、別にいてもいいよと言った。家事は手伝ってくれるし、1人暮らしでは結構私も大変だったんだなと実感した。
同じ時期に、主治医に付き合っていることを報告したら、結婚と子供は諦めてと言われた。
結婚に関してはよく分からないけれど、妊娠や出産、育児に関してはどうやら私と母親の関係が影響して、結果的に私の負担になり、それが子供の日負担にもなると言われた。
デイケアスタッフも、私の境界知能の特性をあげて、子育て自体イレギュラーの連続で、そんな中でお母さんとのことを再体験するような事態が起きれば、本当に辛くなると言われた。私はとても落ち込んだ。
私よりも大変な人でも子育てが出来ているのに、どうして自分が?と思った。
彼にもその気持ちは話した。彼としても、まずは私に高校卒業して欲しい、年齢的にも子供が自立するまで仕事を続けたり、しっかり生活を出来るか分からないから、俺は子供は望めないよと言った。私の気持ちはとてもよく汲み取ってくれて、今でもこの話になると慰めてくれる。
彼は、子供を産むから幸せってわけでもない、別に俺らが一緒にいるだけで幸せならいいじゃない?例えば旅行に沢山出掛けたり、ペットを飼ってもいい。それでも幸せならいいよと言う。

いつしか、2人で住むのが日常になり、デイケアスタッフもその方がいいと思ったようで、今は2人で住めるように尽力してくれている。
私には見本になる夫婦というものがない。
だから不安になると、私はきちんと奥さんとしてやれているか聞くくせがある。
そんな時、大丈夫だよと言ってくれる。
毎日彼とのご飯を作るのが楽しいし、一緒に家で映画を見たりゲームをする時間も楽しい。
ひと月くらい前から、何やら血圧が高くなったらしく、彼はお酒をやめている。
彼曰く「俺ひとりなら別にいいけど、あなたがいるしちょっと気を付けないと」と言ってくれた。
趣味が合うので、中野や新宿に買い物へ行ったり、外食をあまりしない彼が私の影響で美味しいランチを食べられた時は満足そうに「あそこは美味かった」と言うのも面白い。

一緒にいたいから、ただそれだけの単純な理由なのに、それは私と彼にとって最大の理由なんだと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?