『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』(2020) クリストファー・ノーランが『ユーリカ〜地図にない街〜』を撮ったらこうなるだろうという感じの作品
アメリカSyfyチャンネルのTVシリーズ『ユーリカ 〜地図にない街(事件です!カーター保安官)〜』を、クリストファー・ノーランが撮ったらこうなるだろうなという感じの作品。とくに第1話はキューブリックやヒッチコックの影響が感じられ、ノーラン風だ。シリーズ全体として後味もノーラン的なのだが、意外と日本人にも受け入れられる作品なのではないかと思う。
登場人物が他のエピソードにも跨って登場して、全てのエピソードがリンクしているものの、エピソード毎に主人公格が異なり、ストーリーも、それぞれ独立しているという、セミ・アンソロジー。原題もTALESと複数形になっている。
小さな不思議な町を舞台とした、クリーピー・スモール・タウンとかウィアード・スモール・タウンと呼ばれるジャンルのドラマはアメリカでは昔から人気があり、TVシリーズの『ツイン・ピークス』や『ウェイワード・パインズ』、最近公開されたアマゾン・オリジナル映画『ブロー・ザ・マン・ダウン〜女たちの協定〜』もこの分野に入るだろう。
『フィリップ・K・ディックのエレクトリック・ドリームズ』と同じで、1話毎に監督が変わる。最終話の演出はジョディ・フォスター。脚本は全エピソードをナサニエル・ハルパーン書いている。彼は『レギオン』や『アウトキャスト』といったアメリカのTVドラマの脚本に参加している。
原作のスウェーデンから、オハイオ州に舞台が移されている。ちなみにMercer(マーサー)というのはオハイオに実在する地名である(撮影はカナダ)。「ザ・ループ」と呼ばれる巨大な地下粒子加速器のある実験施設の影響で、周囲では奇妙な現象が起きるというお話なのだが、なぜオハイオかというと、脚本のハルパーンがシャーウッド・アンダーソンの小説(短編集)『ワインズバーグ・オハイオ』の影響を受けているからということで、なるほどと納得。またトマトはオハイオ州の象徴である。ジョナサン・プライスの役名はラス・ウィラード。『地獄の黙示録』のウィラード大尉もオハイオ出身である。旧ソ連のウクライナ辺りを舞台にしてホラーに仕立てても面白いだろうなと思う。
第1話の少女は、母親を"Mom"ではなくアルマと呼ぶのだが、"Alma"はスペイン語で「魂」の意味である。ピンク色のダッフル・コートを着て森の中を歩く少女の姿は『赤ずきん』を思い起こさせる。赤ずきんの母親は、危険と承知で娘をお使いに行かすという母性愛を喪失した子供を守らない利己的な女の象徴、といった説もある。
サイファイというより、子供の頃の空想とノスタルジアが混ざり合ったようなファンタジーであり、エドガー・アラン・ポーやドストエフスキーのような怪奇譚であり寓話であった。そう考えるとフェリーニ的なのかもしれない。時間の不可逆性や特殊相対性理論(ウラシマ効果)、量子力学や重力量子論といった理論物理学は本作品のテーマではなく、母性、老いや喪失、孤独、万物の無常性の探求の手段にすぎないのだ。
※お子さま向け作品ではありません。テーマも子供には難しいし、エピソードによって、やや性的な描写もあります。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?