源吉さんになりたい


先日、「寅さんになりたい」「私はバカになりたい」「更地になりたい」(Yorico Doguchiさん、Yoshimi Taketomiさん、ryo_kingさん)と立て続けにnoteの往復書簡が届きました。どれもすごく面白かったです!
私もここは「(『男はつらいよ』の登場人物なら)私は佐藤蛾次郎さん!」と名乗りを上げた者として、書いておかねばと思いました。

とはいえ「佐藤蛾次郎さんになりたい」と言ってはみたものの、昨年(2022年)12月に亡くなった佐藤さんの長い長い俳優としてのキャリアを私は殆ど語れないので、あくまで『男はつらいよ』の源吉さん、源公のイメージを広げてみます。

「Yoricoさんが寅さんなら、私は源公」という配役は、なんとなく側から他の方が見ても、しっくりくる見立てではないかなあと思います。
時々ふらりと(もちろん、本業である女優のお仕事の合間を縫って)島に現れるYoricoさんに、「アニキー!(アネキー?)」と持っていた竹ぼうきを放り出して駆け寄るような感覚、私にもありますもの。今度はどこ行ってたんだい、早く土産話を聞かしておくれよ、みたいなわくわく感。普段、寺男として、日々変わり映えのしない掃除を不器用ながらもこなしている源吉(源公)さんにとって、寅次郎は外の世界の空気を運んでくる貴重な存在であり、彼にひととき夢を見させてくれる人物であろうと思うのです。

それにしても、現実の世界で新型コロナ感染症により生まれた閉塞感は、とりわけ島にいる人間にとって、なかなかに辛いものでした。なけなしのお金をはたいて年に一度は東京などへ遊びに行くのが楽しみだったのに、2019年の暮れあたりからは本当にしばらくの間どこにも出られず、亡くなった母を見送り、マスクの中で溜息をつきながら、遠い街のことを考えたりしてどうにか過ごしていました。しまんちゅはつらいよ、てなもんで。

少しずつ人の往来が復活していくなか(社会的にもすごく喜ばしいことなのではありますが)、SNSなどを通して可視化された人の動きもよく見え過ぎて、ああ住んでいるところが地続きの人たちはいいよなあ…。私、今度いつ島から出られるんだろう、なんて鬱々とした思いを募らせていたのでした(ほかの方もそれぞれに、つらさを抱えてきたことでしょうに)。

去年は3年ぶりに東京へ行って、学生時代の旧友をはじめ数人の会いたかった方々に会えました。遠くからでしたが、気がかりだった音楽家の復帰ステージを見ることもできて涙が出そうでした。

柴又には、寅さんこと渥美清さんが亡くなられた1996年の夏に行ってみたことがありました。帝釈天にお参りをして、草団子をいただき、川べりを歩いて、そうそう矢切の渡しにも乗ってみたんですよ!確かあのときは二組ずつ乗船ということで、たまたまタイミングの重なった見知らぬ男性と乗り合わせたのです。
当時二十代半ばの私と、五十代後半くらいに見えた小父さん。無口な船頭さんがギシギシと櫓を漕ぐ音と、小舟に当たる、ちゃぷちゃぷという水音だけの聞こえる静かな時間。会話もなく、それぞれに何を思っていたのでしょうね。その物寂しい空間も案外心地良かったのを覚えています。

私は観ていないのですが、『男はつらいよ』の中で、源吉さんが寅さんに付いて寺を出るエピソードがあるそうですね。気になるので今度観てみなくちゃ。頼りなくて不器用で冴えないし騙されやすい道化役だけど、愛嬌のある源吉さんに、私はシンパシーを覚えます。寺ではなく島にすっかり根っこの生えてしまったような暮らしの中で、ひょっこり外からやってくる(帰ってくる)いろんな寅さんを、ちょっと情けないような、でも忘れられない笑顔で迎える、源吉さんみたいな人間を、せめて目指したいのです。

そんな稀有な役柄を長年演じてきた佐藤蛾次郎さんは山田洋次監督にもとても愛されていたようですね。まだまだ名脇役として活躍してほしい方でした。経営されていたスナックがコロナ禍で閉店せざるを得なかったそうですが、お店のことも知っていたら行ってみたかったです…。ただただ、ご冥福を祈ります。

先日のお喋りの中で、寅さんの妹さくら役はYoshimiさん、それならば、ryo_kingさんは草団子の着ぐるみなんてどうだろうとパッと思いついたのですが、それが昭和のシュールなドラマみたいだねと皆さんが続けてくださって、興味深いなと思いました。久世光彦さんのドラマだったり、カックラキン大放送だったり、そんなオフビート感漂うゆるゆるとした世界をまた観たいなあと、シリアスでダークなドラマや、お笑い芸人がはしゃぐだけのバラエティが増えた昨今、思います。

ところで普段はダンディな雰囲気だったという佐藤蛾次郎さん。プロフィールを読んで、思わずにっこりしたので、最後に書いていいですか?
蛾次郎さんと私ね、一個だけ、ぴったりの共通点があるんですよ。ただならぬご縁を勝手に感じて、嬉しくなりました!

大きな声で言いますね。

…身長、155cm〜!!!

くりくりヘアのかつらを探してみます。
(満面の笑みで)















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