Road To Infinityについて

この投稿は大学の授業で「自分に影響を与えた体験」というテーマで書いたものに、加筆・修正を加えたものである。7回ほどの修正を経た最終稿と、それについたアドバイスを参考にした。
新しく文章を書くことも考えていたが、クソデカ感情を助言なしに1人で処理できるCPUは持ち合わせていなかった。
大前提として読者はアイナナについて全く知らないことを想定した為、マネージャーの方にとってはくどい文章になるかもしれない。

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2018年7月8日、埼玉県にあるメットライフドームにてアプリゲーム「アイドリッシュセブン」の初ライブが行われた。この日は真夏日で気温は35℃を超えていたが、4万人の観客で埋め尽くされたドーム内は更に暑く感じられた。300万ダウンロードを突破したこのアイドル育成ゲームでは、メインストーリーで12人のアイドルたちが芸能界の闇に翻弄されながらも奮闘する姿を描いている。特に私はゲームに登場する八乙女楽というキャラクターが一番好きだ。会場内の観客は開演前から場内に流れるBGMに合わせて色とりどりに光るペンライトを振っており、まるで花畑のようだった。そしてライブのオープニング映像に八乙女楽が映し出されるとステージ近く、右手のアリーナ席で彼の声優に届くように「楽さん!」と声の限り叫んだ。

このライブはゲームに登場する12人のアイドルたちを演じる声優が、衣装を着てパフォーマンスをするというものだ。配信開始から3年弱、ファンにとっては待望のライブ開催であった。八乙女楽は銀髪に切れ長な目、荒い言葉遣いをしたりと冷血な人物に誤解されやすいキャラクターだが、実は熱血漢で仲間や家族を大事に思っている22歳のアイドルだ。そしてその声を担当する声優の羽多野渉は彼のイメージカラーであるグレーを基調とした衣装を身につけて登場した。普段彼は穏やかな人柄で、自身のライブのトークでは煽りでさえも「良ければ皆さんもタオル振ってくださーい!」などと謙虚に話す。しかしこの日のMCでは八乙女楽を再現しようと「最強に盛り上がろうぜ!」などと、腕を振って観客席を煽っていた。ここまでの再現度は想定外で、煽りがこちらに向く度に思わず仰け反ってしまった。彼の性格を仕草にまで反映させようとしていたのがわかり、私はますます彼を好きになった。

 1曲目からモニターに映るキャラクターが踊っている映像とのシンクロ、そして息の合ったダンスの完成度に度肝を抜かれ、隣にいた友人の肩を揺さぶって「これはやばい!!」と叫んだ。友人はすでに泣いていた。7人、3人、2人のユニットごとの楽曲を披露し、容赦無くライブが進んでいく。ロックチューン「Heavenly Visitor」ではステージ上に火柱が上がり、熱波が私のところにも押し寄せた。その熱の中でも八乙女楽もとい羽多野渉は客席を煽り、私も身振りと声でそれに応えた。もちろん周りからも黄色い声援や、「うわわわ」と慄くような声が聞こえた。

 15曲目が終わった直後のMC中、ゲーム中で礼儀正しくも作曲に対する熱い思いを持つキャラクター、逢坂壮五を演じるキャストがステージ上の階段を上がり、その先にあった黒いグランドピアノでバラード曲「Sakura Message」のイントロを弾き始めた。この時彼はゲームに登場する衣装を着ていたが、ピアノの演奏はゲームのストーリーにはなく、全くの予想外だった。驚きももちろんあったが、ストーリー中でユニットの記念日に披露された大切な曲であったため、力を入れて演出していたのが本当に嬉しくて気づけば私は涙を流していた。後のMCで彼が「僕にとって初めてのアイドルものなので、もう1つ初めてを増やしてもいいかなと思って」と、ピアノ初心者であることが明かされた。このライブのために、私たちのために努力をしてくれた事が嬉しくて仕方がなかった。

 5分ほど続いたアンコールを経て最後のMC中、ライブTシャツを着てセンターに立つ、七瀬陸役の小野賢章がこんなことを言った。「稽古もいっぱいしました。皆さんに楽しんでもらおうと思って、本当に、いっぱいしました」いつもは仲のいい声優とふざけている姿が見られ、ライブでは常に明るくセンターで笑顔を見せていた彼だったが、この時は見たことがないほど真剣な表情だった。ライブのMCでライブ前の努力をあえて公演中に見せる人は、私にとって初めてだった。先述のピアノを弾いたキャスト然り、キャスト全員が私たちのためにたくさん努力をしてきたことがわかった。すごい、という言葉しか頭に浮かばなかった。そしてこの素晴らしいライブのためにどれだけの人がそのような努力をしてきただろうと思うと、私はありったけの感謝を込めて「ありがとう!」と叫んでいた。


 当時の私は特に将来やりたいこともなく、両親の勧めもあって公務員になることを考えていた。しかしこのライブでペンライトの海を目の当たりにし、キャストの思いに触れた。「稽古もいっぱいしました」と言ったキャストに憧れを抱いた。多くの人の心を動かすには苦手なことや新しいことに挑戦し、努力を重ねることが必須であると改めて思い知らされた。ライブが終わった時には自分も音楽や言葉、物語を通じて誰かの気持ちを動かすために頑張れる人になりたいと強く思い始めた。現在私はこの思いを叶えるべく、就職活動を続けている。何度となく落選しても諦めず現在に至る。自分の価値や思いを否定された気がして、何度も諦めたくなった。しかしその度にキャストやスタッフの努力の結晶とも言える4万人分のペンライトが光る美しい景色と、彼の真剣な眼差しとその言葉を思い出すからだ。

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課題のため全て敬称略、発言内容は自分なりに意図を汲んだ上で変更した部分があります。

補足しておくと、これを書いたのは2019年6〜7月に渡ってである。なのでまだ2ndのREUNIONについては言及していない。
また私はこの時大学4年生であり、エンタメ業界を目指して就職活動中だった。
現在は無事に卒業し、第一希望とは少し違うものの音楽やエンタメに関わる仕事に就くことができた。
自宅待機が続いているのでまだ現場には出られない。だがあのライブで感じた思いは今も忘れていないし、今後働くときも忘れずにいたい。

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