マガジンのカバー画像

日記ふうエッセイ【ひび】

52
生活のスケッチ
運営しているクリエイター

#旅

ひび|2024.02.11

いつもの電車に乗って、いつものようにドア横にもたれて、いつものように文庫本をひらく。でもふいに車窓に目をやって、飛び込んできた景色はいつもよりまぶしかったし、あんな看板あったっけって、今更はじめてみたような気持ちがする。空がとにかく、蒼い。目の前に立っていたオバサンは駅に着くやいなや上り方面へ向かってピョコピョコせわしく首を動かして落ち着かない。降りるわけでもなくまた車内に戻って、しきりにまたピョコピョコやっている。白く着ぶくれたコオト姿が、巨大な白鳩のようで可笑しい。扉が閉

【日々】大地から宇宙へ、旅から日常へ|二〇二三年九月

二〇二三年九月九日  うしろ姿のキュートな女の子が歩いている。眺めつつ歩いていると、うしろから勇猛そうな、でも声変わりのしていない芯の細い声が飛んできて、ユニホーム姿の野球少年たちが自転車で次々わたしを追い越してゆく。精悍に焼けた肌と線の細いからだ。そのかれらのほとんどが、前をゆく女の子の顔を追い越しざまに振り向いて確認していったのをみて笑ってしまった。わかるよ。つい見ちゃうよね。駅へ急ぐわたしの脚もすぐに女の子との距離を縮めてゆく。右手から大きく弧を描くように追い抜いてゆ

【日々】酒・夢・旅|二〇二三年一月

二〇二三年一月二十四日  会社を出ると凄まじい暴風に冗談抜きでよろめきそうになった。しかも凶悪なまでに冷たい。風が凍りついている。悲鳴をあげたい気分でそれでもアメ横へあるいてゆく。  冷風にふきさらされてひどい顔でタバコを吸っている東村と落ちあい、安居酒屋に飛び込む。物書きごっこ二人の、定例打ち合わせという趣向である。互いにおのれの道行きに懊悩しながら、素直にしんどいと吐き出し、ふだん爛れたところにあてている包帯も解き放って、束の間酒を呑み、未来のささやかな楽しみに舌鼓を