マガジンのカバー画像

日記ふうエッセイ【ひび】

52
生活のスケッチ
運営しているクリエイター

2024年5月の記事一覧

ひび|2024.05.18

あーちゃんが出かけてゆくのを、七割ぐらい眠ったままの頭で見送る。気がつくともう十時前で、ぼっさりと起き上がってひげをそり、暴れ散らした髪を櫛で殴りつけ、洗濯機を回し、ロンTにジーンズで駅へ向かう。手ぶらで歩くと気持ちがいいけれど、この時間でもすでにじりじりと陽射しが痛い。駅で友人のタケ氏と落ち合って、明日の文学フリマで必要な荷物一式を詰めたスーツケースをうけとってまた引き返す。慣れない重みを引きずってあるく初夏の道々、あっという間に汗がにじんでくる。 四十分ほど締め切ってい

ひび|2024.05.02

今まさに訪れようとしていたお店からオーナーが出てきて、目の前で鍵を閉めて出かけてゆくのを見てぽかーんとしてしまった。(そんなことある?)って口の中でちいさく呟いて、所在なくそのままどこへゆくともしれずうろうろしてしまうくらい動揺した。あまりにも見事すぎて。一度伺ったことはあったけれど、またじっくり見にいきたいなあとずっと思いながら予定がことごとく合わず、たまのチャンスにはピンポイントで臨時休業だったりして、でもきょうこそは、ようやく、……と思っていたから尚更。しかも勿論きょう

二〇二四年四月

四月さいごの朝、いつもどおり「いってくるね」と声をかけたけれど、返事はなかった。ひとり玄関でクツをはき、扉を開け、鍵をしめる。真っ白にひかる空から、音もなく雨がふっている。肉眼でたくさんの雨粒が降りしきるのがみえているのに、傘はまったく歌わない。風がさやさや抜けてゆく。きのう今日と、なんてうつくしい朝だろう。咲き乱れるツツジのショッキング・ピンクが、植え込みからアスファルトにまであふれて、こぼれおちている。 * 新年度。あんまりわたしには、関係がない。だから四月一日もへい