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新米PI日記 「勤務開始となるその日まで」

6月に初めてのインタビューを受けて9月の下旬にオファーレターにサイン。その3ヶ月後には新天地に異動ということで、精神的に何となくソワソワする毎日を過ごしていました。今回は、そんな新しい職場での勤務開始日までの振り返りをご紹介します。

異動までのノルマ

9月は日本心臓血管麻酔学会、10月は日本胸部外科外科学会に参加するためにそれぞれ日本に一時帰国していたので、異動の準備を本格的に始めたのはアメリカに戻った10月下旬に入ってからでした。やることとしては主にその当時の職場を辞めるための手続きと、新しい職場に雇用されるための手続きになります。それに加えて前職場で自分が研究した内容のデータを新しい職場でも使用するための手続きと、グラントの移動の手続きが必要となりました。ざっと列挙すると下記のようになります。

前の職場で必要だった手続き
・人事部に辞める日をメール
・退職に伴うアンケート
・大学やラボに付属している物品などの返却確認リスト
・研究データを新しい職場で使うための移行手続き
・グラントを移行するための手続き

新しい職場で必要だった手続き
・アカウントの作成
・雇用に関わる書類の提出
・ワクチン接種歴、麻薬使用の有無などの検査
・バックグランドチェック(主に犯罪歴など)
・グラントを移行するための手続き
・動物実験のためのプロトコールの作成

退職の手続きは割とシンプルでしたが、問題なのは必要なデータを新しい職場で使えるようにする手続きや、グラントの移行の手続きでした。とにかく事務方の人たちの対応がとてつもなく遅い。数週間単位でちょっとずつ進展がある感じです。これまで8年以上過ごしたなかで、事務の対応が遅いことはしばしば経験していたことなので、しょうがないとすでに諦めていたことですが、彼らが毎日どれくらいの仕事量をこなしているのかはとても興味があります。
そして、これは意外と知られていないかもしれませんが、研究で得られたデータは、研究を実際に行った個人のものではなく、大学・研究施設に帰属しています。つまり、勝手に自分の研究データを新しい施設に持っていくことはできません。知的財産や特許を管理している部署に、どのデータをどのような理由で別の施設に移行したいのか申請書を提出し、その許可をとる必要があります。この手続きも担当者のレスポンスが遅かったので、まあまあ時間がかかって困りました(ちなみに、これは異動先の担当部署とも連携をとって手続きを進める必要があります)。
新しい職場については、病院が運営する研究施設でPI(研究室の主宰者)として働くこととなったため、そことは別に肩書き上、州立大学の職員(アシスタント・プロフェッサー)として州立大学医学部にも雇用手続きをしないといけない状況でした。幸い、研究施設のほうは引っ越しから勤務開始後のサポートまでしてくれる専属の担当者がいたのでともて助かりました。分からないこと、困ったことは基本的に彼女にメールするとなんでもサポートしてくれました。残念ながら州立大学の手続きは全部自分でする必要がありましたが、基本的には似たような手続きの繰り返しだったので、メールで指示された内容をたんたんとこなしていく感じでした。一番大変だったのはグラントを移行するために、新しい研究施設でプロトコールといわれる大動物の実験計画書を作成する作業だったでしょうか。すべて電子化されており、指定のサイトから情報を入力していけるのはいいんですが、書式が以前の職場のものとそれなりに違っており、勝手が分からずになかなか苦労しました。

お引越し

異動についてもう一つの大きな課題は家を探すことでしょうか。飛行機だと空港間は90分くらいの移動になりますが、気軽に往復できるような距離ではありません。今回は、家庭の事情もあり単身赴任で生活がスタートすることになったので、探そうと思ったのは 1 bed 1 bath(1つのベッドルームと1つの風呂・トイレ)のアパート。日本でいうところの1LDKのマンションになると思います。事前に治安の良いエリアを聞いていたので、その中からアパートを探すことに決めました。
引っ越しの担当者が病院施設がよく依頼しているという不動産屋を紹介してくれたので、その人にいくつかアパートをチェックしてもらいました。ただ、アメリカで通常家探しをするときはアパートはリーシング・オフィスといって賃貸契約を行ってくれる担当者がアパートの一角に滞在しているので、アパートに関する質問だったり契約内容は彼らと交渉していきます。不動産屋が必要となるのは家を購入するときというのがこちらでは一般的だと思います。そこで、結局のところは、グーグルマップで片っ端からアパートをチェックしていき、口コミで4.5以上の星がついているところをエクセルシートにまとめて、口コミ数、部屋の間取り、家賃、駐車場の状況(屋根付き希望)をリストアップし、研究施設までの通勤時間などを考慮してランキング表を作成しました。今、表を見返してみると36個のアパートをチェックしていました。
アパート含め家探しで困るのは入居後のいろいろな不具合があります。冷暖房がちゃんと作動しないとか、洗濯機・乾燥機が壊れたとか、レンジや冷蔵庫の家電製品トラブルなどもあります。また、アパートであれば部屋の位置がどこにあるのかも毎日の生活を考えると重要です。また、電気代、水道代、ガス代、Wifiなどのインターネットやケーブルテレビの費用がどうなっているか確認するのも大切です。また、レンターズ保険といわれる家財保険に入ることも要求されます。初めて渡米する人はアンブレラ保険に入っている人が多いと思うので、そうじゃない人は別に保険に入り直す必要があります。あと冬場に雪が積もるエリアに住む場合は屋根付きの駐車場化どうかもQOLが随分と変わってきます。
それらの条件を考慮し、最終的に候補のアパートを2、3つまではしぼりましたが、決める前にアパートの下見をするかどうかは最後まで悩みました。結局のところトラブルのリスクが低いことを期待して、最近できたばかりの新築のアパートに契約することにしました。ちょうど12月15日までに入居したら、1月までの家賃は無料というキャンペーンをやっていたので、勤務は1月2日から開始でしたが12月15日に入居手続きをすることにしました。引っ越しについては新しい勤務先から十分な引っ越し代がでることが分かりましたが、単身赴任で荷物も多くはなかったので、引越し屋さんは頼まずに車に必要な荷物を積み込んで自分で引っ越しすることにしました(ちなみに車で9−10時間くらいの距離です)。
12月14日木曜に出発し、途中で一泊したのちに15日金曜の昼過ぎにアパートに到着しました。その足ですぐにIKEAやTarget(大型スーパー)にいって必要な家具を購入し最低限の生活必需品をそろえました。Wifi接続がうまくいかずカスタマーセンターに連絡しまくったり、直接、店を尋ねたりしたりと少し手こずりましたが、それ以外については概ねスムーズに入居できたと振り返ります。18日月曜に新しい職場の対面式でしないといけない手続き(ワクチン接種歴の確認、麻薬使用のすクリーニグ検査、指紋の採取、職員用名札の写真撮影など)を済ませて、19日に再び家族のいるアトランタに飛行機で戻りました。それから12月30日まで家族と一緒に時間を過ごしたのち、結婚以来初めての単身赴任生活が始まりました。

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