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夜の街‥お父さんの事業をたたむ手伝いをする中で一番印象的だったことは‥

結婚したての20代の路瑠が
義父の事業をたたむ手伝いをしました‥。


お父さんの「迷惑かけないから」の言葉を信じて
夫は連帯保証人の書類に捺印していました。
 
商売をするということは波風があって当然で

以前にも倒産の危機はありましたが負債は500万円程度だったことと
景気も落ち込んではいなかったので何とか事業資金をやり繰りして前回は
持ち堪えましたが、

今回はバブルがはじけた影響で景気も落ち込み仕事の受注も減っていたこと
何より3回の不当たり小切手が致命傷となりました。
負債の総額は約3000万円‥父はただの個人事業主で下請の下請そのまた下請
「もう返しきれない‥」小さい経済的体力と下向きの景気では返済は困難に‥

「こんなことになるなんて‥」と一番落ちこんでいたのは義父で
家族に迷惑をかけたくなかった一心で何とかしようと頑張ってたのは
知っています。それでも銀行以外の金融にお金を借りていたから借金が借金を呼んで膨らんで‥家族に全てが明るみにでた時には‥もう義父は「どうすることも出来ない状況で」首が締まっていました‥。

「どうしよう‥」
家族みんなの思考回路は止まっている。

事務を担っていたお母さんは疲弊しきって日頃の積み重なりもあり離婚を決め‥もう色々動いてもらう訳にはいかなくなり‥
事業の会計士は義母の妹の旦那さんで‥なんだか相談しづらくなってしまいました‥。
幸い雇っていた職人のみなさんには給与を払うことが出来ていたので
給料の面で迷惑をかけずに済んだのは本当によかった。

それでも事業をたたむと言うことは、長年に渡り義父を信頼して
仕事を受けてくださった職人さんに、迷惑をお掛けしたことに変わりはなく‥わたし達は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら
倒産の準備を進めていきました‥。

職人になりたての事業のいろはも知らない夫と
結婚したらいきなり主人の実家が倒産のわたしは
義父の借金を返済しようと伴走し
小切手の不当たり元の得意先や銀行や銀行保証協会や民間の金融業者などに直接交渉に行くのです‥。

その日は、「息子は行かない方がいい」と義母の助言もあり
義父とわたしのふたりで、
借金を返済をするために金を借りていた「10日で1割」巷で言う
『トイチ』と言われる闇金融の交渉に行くことに‥。

ダブルのスーツのお兄さんはわたし達を店先のカウンターで出迎え
義父とスーツのお兄さんは既に顔見知りの様子
義父とお兄さんが揉めていると‥
奥からももう一人、ダブルのスーツのお兄さんがやって来て
義父を囲む様に何やら話がはじまりました‥
わたしは縮こまる様に息を潜めて傍にいると‥。

強面のお兄さんが フッとこちらを振り向いて「あんた、娘さん?」と聞くので
声を震わせながら

「いいえ嫁です、、、しかも最近結婚したばかりです、、、だからわたしはお金でいい思いはしてないです、、、この状況を何とかしたくて一緒に来ました。」と震えていたので声が出たかどうか、ちゃんと言えたかどうか‥

するとスーツのお兄さんは
「お嬢さんすみませんが‥席を外して下さい、お父さんと話がしたいんで‥」

「わっわっわかりました、、、」

わたしはガタガタと店舗の外のドア脇まで移動して、そおっと義父のことを待っていると‥

「おやじさん、嫁さんを巻き込むのはルール違反だよね」ガシャァン‼︎と
ドスを効かせて脅されていました‥。

義母の言う通り「息子」は行かなくって良かったと思いました‥。
もう二度と行きたくないと思いました‥。


それでも、それぞれの事務所に「毎月〇〇万円ずつ返していくから、取り立てを待ってくれ」と交渉するも事業として入ってくるお金が少ないから‥返済は滞りがちになり‥生活はますます苦しくなりました‥。

夫の家族もどうしたら良いのかわからなくなって‥心も体も止まったまま‥

それでもわたしは何とかしようと考えて‥

『ホステス』だったら昼間も働いて夜も働ける、しかも高収入
早く借金を返せるかもしれないと思い立つ‥それは‥

決して安易に「ホステス」を思いついた訳ではありません‥。

路瑠のお母さんが路瑠がまた幼かった時に、ホステスをして家計を支えたことがありました‥。
母は夕飯をつくった後、鏡の前で‥白粉をし眉を描きはじめ唇は紅筆で綺麗に整えていく‥母は‥お母さんではないお母さんになる‥
これは綺麗な母でも、ちっとも嬉しくない‥。

夜寝る時に大好きなお母さんが傍にいない‥子どもは温もりが恋しくて毎晩毎晩泣いている‥。

「ホステス」‥路瑠にとっては悲しいトラウマ
「ホステスになる」‥路瑠にとっては最後まで残しておいた選択‥

この借金を返したら普通の結婚生活を送りたい‥普通に子どもを授かりたい‥
仕事に行く夫を見送って、幼い子どもと一緒に公園に行き、いっぱい遊ばせたそのあとは家でお昼寝する子どもを寝るまで「トントン」しながら優しい眼差しで見守り、夕方には温かなごはんの準備をする‥そんな家庭をつくりたい‥。

わたし‥涙が溢れて止まらない‥。

夜が始まる少し前‥路瑠は不慣れな厚化粧をして‥夫に内緒で「ホステス」の面談に行きました。

大通りから裏道に入る雑居ビルの3階
エレベーターで上がる時、綺麗なお姉さんとすれ違う。

お店に入ると店長さんと面談
まだ誰もいないお店の中で
「きみ、お酒飲める?」
「はい飲めます。」
「水割りつくったことある?」
「ないです。でも教えていただければつくります。」

カランカラン‥お姉さん達がお客さんと一緒に入ってくる‥まだ本格的に賑わう前‥

「じゃぁ、ちょっと席に一緒に付いておしゃべりしてみる」
「はい、よろしくお願いします。」と完全にカチコチのわたし‥

すると奥からか風格のある男性が入って来て店長が‥
「あっ、オーナー面談の子です、どうします‥。」
「う〜ん、カウンターから入ってもらうか‥履歴書見せて‥」

しばらくオーナーが履歴書を眺め‥そして路瑠をそばに呼ぶ‥

「路瑠さん何でこの業界の面談を受けにきたの?」初めての真面な質問
しばらくの沈黙‥。

わたしは硬く閉ざしていた口を開きポツポツと義父のこと
借金のこと、お金を返済して普通の生活を送りたいこと家での出来事を
自分の思いと一緒に淡々とオーナーに話していました‥。
何となくその方が、同情して雇ってもらえると思ったから‥。

するとオーナーは徐に‥
「路瑠さん、お父さんの犠牲にならなくていいんだよ‥」
「お父さんの問題はお父さんに償って貰わなきゃ」

「それでも何とかしたいと思ったら昼間一生懸命に働きなさい。」

「それでもまだダメだったら、その時はうちのお店に来なさい」
「他のお店は行っては行けない。」

「今日はもう遅いから帰りなさい。誰かに送らせようか?」

「いいえ自分で来たので自分で帰れます‥。」「失礼します‥ありがとうございました‥」

お店の綺麗なお姉さんがドアを開けエレベーターのボタンまで押し
路瑠が消えるまで見送りまでしてくれた‥。

あたりは夜になっていて男の人と女の人が身体を寄せ合いながらお店の中に消えていく街

オーナーは‥路瑠を働かせることだって出来たのに‥

あの時、履歴書を見て娘さんと路瑠が同じ高校だったことに気づき
路瑠の事情を聞いてきた‥

同情なんてしなくてもよかったのに‥神様のいたずらだったのか‥
何だったのか‥。

路瑠はトボトボと家に向かって歩いていく‥。

「もう疲れた‥」

路瑠はしばらくして実家に帰ることに決めました‥
もう家には戻らなと決めていました‥
疲れ果てていたのです‥。



第17話


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