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『当たり屋』 路瑠
なんで、あんなことをしたんだろう?
見て欲しい
振り向いて欲しい
心配して欲しかった
路瑠の方法で、一生懸命に試していたんだ。
なんで、あんなことをしたんだろう
![](https://assets.st-note.com/img/1679048652618-OW6yHnMPaV.jpg?width=800)
路瑠は母が居ない淋しさをそのままにすることは出来なかった。
父でもいいから、振り向いて欲しかった。
父の職場は、家から近かった。歩いて10分もあれば行ける距離だった。
![](https://assets.st-note.com/img/1679048758230-fVMpbDkP5e.jpg?width=800)
淋しくなると路瑠は、おもむろに缶詰をあける、
今と違って缶切りでギコギコと開けていく。
あけ終わると、中身を食べる。
お腹は満たされる。でも心は満たされない。
残った缶の縁は鋭くギザギザしている。
缶の中に路瑠の小さな手を突っ込み蓋を戻す。ギュッと蓋を戻す。
すると当然だが、缶のギザが小さい手に食い込む、結構血が出る。
そして、父の元へ「血が出でたぁー」と歩いて行く。
父もビックリして、アタフタと対応してくれる。嬉しかった。
だから、淋しくなると何度でも繰り返す。
でも、父が慣れっこになると
違うことを思いつき父に心配をしてもらうの繰り返し。
家には風呂がなかったから銭湯に行く。
![](https://assets.st-note.com/img/1679048797974-9Y87wcW2e6.jpg?width=800)
銭湯に行くと路瑠は、脱衣所と洗い場の界の引き戸に、
わざわざ指を挟み、血を流して泣いている。
周りのおばちゃんたちがビックリして、番頭さんに伝え、
番頭さんが男湯の父に慌てて伝え、
父が慌てて男湯から上がり、心配そうにしてくれる。
そんなことも何度かあった。
ある時、
車の通りの少ない、アパート前の通り道、
近所の男の子が野球の練習で、木製のバットを振っていた。
![](https://assets.st-note.com/img/1679048858976-S9qZYnNRBA.jpg?width=800)
路瑠は「テレビで『当たり屋』ってのをやっていたなぁ…
わざと『当たって』お金をもらっていたなぁ…。」
「わたしは、車には当たれないけれど、
このバットに『当たったら』どうなるのだろう?」と考え
次の瞬間、
勢いよくスイングするバットに、当たりに行ったのだ。
飛び込むように!!
…その後の記憶は…無い。
目が覚めると、路瑠は、家の布団に寝ていて
心配した数人の大人の顔がぼんやりと見えた。大人の人たちは、心配そうに
寝顔を覗き込んでいる…何かやり取りしている話し声。
『あぁ、お菓子を貰っているなぁ…』と思いながら、路瑠は、また寝てしまった…。
病院には行かなかった。
お菓子を食べた記憶も無い。
その後、男の子は、アパートの道路で素振りの練習をすることはなかった。
なんか悪いことをしてしまった…。
路瑠は、自分のせいで鼻が少し曲がってしまった。
今でも疲れると、バットが当たった右頬が痛い。
第4話
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