東京パフォーマンスドール「BRAND NEW STORY」

新生東京パフォーマンスドール(TPD)のデビュー曲であるこの曲、2014年にリリースされてからTPDの象徴ともいうべき曲になっている。リリースされたのが2014年であると言われなければ、2010年代より少し前リリースされた曲なんじゃないかとも思ってしまう、どこかで昔聴いたことがあるような雰囲気さえある曲である。

およそ90年代の、TKサウンドも少し練りこんであるような…うまく伝えられないのがもどかしい。デビューを飾るにふさわしく、関わる人みなの背中を押してくれるような、勇気の出てくる曲といったところだろうか。この時期にデビューしたアイドルは数えきれないほどあろうが、その中でも懐かしさを感じさせる曲調とメッセージ性の強さは、他のグループのデビュー曲とは一線を画している。

TPDについてまだその名前しか知らなかった頃、「アイドルお宝くじパーティーライブ」なるCS番組主催のライブイベントで初めてTPDを観た。メンバーの名前も知らないし、どんなセットリストだったかも覚えていない。

けれども、Brand New Storyを聴いたことだけは覚えている。その時も冒頭に書いたように、どこか懐かしさというと大げさだろうか、前にも聴いたような感覚を覚えていた。だから耳に残っていたのだろうか。「前にも聴いたような感覚」というのは悪い意味での使い古されたもの、というよりは耳なじみがあり受け入れる土壌ができているという感覚である。

人間、初めて接するものには否定的にとらえがちなきらいはあるが、多く接するものには、好きになっていく傾向があるのだと思う。好みを行動科学の観点から掘り下げた著書(トム・ヴァンダービルト「ハマりたがる脳」)によると、好みは学習するものだという。接触する回数が多ければ多いほど学習し、好きに近づいていく、逆に初めて接するものに対していきなり好きになることは難しいという理屈である。この考えに当てはめると、なるほどこの曲も以前学習した曲を頭で記憶していて、初めて聴いたときに過去聴いた曲とのどこかでの共通点から、その記憶と結びつけやすくなったのだろう。その結果、初めてなのに初めてでないようななじみ深さを覚え、好きになっていったのかもしれない。実際、ライブにこそ行かず、メンバーの名前すらも知らなかったものの、このライブ以降Brand New Storyはじめいくつかの曲だけはサブスクでよく聞いていた。

それから数年たち、ようやくTPDのライブに行くようになってから思うのは、なぜこの頃に行かなかったのかという後悔である。デビュー3年後に満を持してリリースされたアルバム「We are TPD」の収録曲を聴いてみても、各曲非常にレベルが高い。どこか懐かしさを感じさせるBrand New Storyに加え、「SURVIVAL!!」や「DREAM TRIGGER」など力強い曲が多い。また、振り返ってみると、デビューしてから2,3年間のTPDは、メンバー皆が真っ白な衣装で統一されていた。イメージとして鮮明に残っているのはWe are TPDのジャケット写真での、メンバーが着ている白のナポレオンジャケットである。このころのアイドルは衣装に各メンバーを象徴するメンバーカラーが施されたものを着ることが多かったので、皆が白一色で統一という当時のTPDのスタイルは少し珍しかったように思う。しかし、その統一性というのが他にはない、言ってしまえばはやりのアイドルらしくない良さがあったのではないだろうか。この衣装で良曲のパフォーマンスをする集団。パフォーマンス「ドール」とはいうがお人形さんなんていうイメージとは違う、一層高貴なものを感じさせてくれる。
書き出してみるとつくづく曲に興味を持った時点でライブに言っておくべきだったと思う。

それから数年して、遅ればせながらTPDのライブに行きはじめた。Brand New StroyはショッピングモールでのCDリリースイベントでも何度聴いただろうかというくらい聴いたし、ワンマンライブでもTPDの代名詞であるノンストップライブの後半戦、もうそろそろ本編ラストといったところでも毎回のように歌われていた。ノンストップライブは曲の構成が大体決まっているので、終盤に差し掛かると、そろそろBrand New Stroyが来るころだなと心の中でカウントダウンが始まってもいた。おそらく僕がライブに行きだす前にもライブでは毎回くらいの頻度で歌っていたのだろう。かなり大事にされている曲という印象である。

これだけ親しまれているのは、結成から1年近く経ってようやくリリースされた待望のデビュー曲であり、それだけに思い入れが強いためであるとは思うが、それに加え、前に進んでいこうという、TPDらしさを感じさせてくれる最も象徴的な曲であるからかもしれない。先述のようにTPDには逆境を打ち破っていこうという曲が他にもいくつもあり、特にデビュー数年は力強さを与えてくれる曲イコールTPDの曲というイメージが出来上がっていた。「頑張って」と言ってもらえる曲というより、先陣切って獣道を一緒に進んでいくような曲が多いイメージである。その先駆けとして、デビュー曲のBrand New Storyはひときわ輝いており、TPDが TPDたるゆえんの再確認のためにライブで必ず欲せられる曲になっているのかもしれない。

Shinin’ Day Shinin’ Way
いつでも
夢見る旅人たちは
新しい道を拓くよ

何の旅人たちなのかは聴く人次第だが、彼女らに歌われると自分もなにか切り拓けるような気がしてくる。

TPDがCDデビューして早くも6年が経過した。5年持てば上出来な感のあるアイドルの世界で、活動休止期間もなく、高いレベルのパフォーマンスを保ちつつ一線を走り続けていることは素晴らしい。2018年には月一ペースでノンストップライブも開催され、セカンドアルバムもリリースされた。今年に関しては、昨今の事情もあり、ライブのペースは落ちて行っているものの、それでも6月には6周年オンラインライブがあり、9月にも定番のノンストップライブがオンラインで開催される。もちろんオンラインライブでも良いのだが、やはり生のライブが一番である。今後また生のライブが再開されたら、再スタートの意味合いも込めて、ぜひとも生でまたBrand New Storyを聴きたい。

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