夢みるアドレセンス「Bye Bye My DAYS」

サザンの往年の名曲を想起させるタイトルのこの曲は、2015年にリリースされた夢みるアドレセンス(夢アド)のメジャーデビュー曲である。
デビュー当時のの夢アドのことで覚えているのは、錦糸町オリナスのタワーレコード店内で行われたこの曲のリリースイベントで、大盛況となっていた画像をツイッターで観たという、ピンポイントの妙な記憶である。当時錦糸町のタワレコといえばアイドルのリリースイベントではよく使われている会場で、普通のショッピングモールなのに普通のライブハウスのように客が声を出していた。同じ階に本屋さんもあったのに、閉め切られてもいない開放的な場所でよくあれだけ声を出すのが認められていたなと思う。すでに錦糸町のタワレコには行ったこともあり規模感もわかっていたので、この店内に客がひしめき合っているのはさすがモデル出身でインディーズ時代から注目されていた人らだな、というのが感想だった。

MVが撮影された場所の一つは、神宮外苑にある聖徳記念絵画館前の広場。
この聖徳記念絵画館、神宮球場にプロ野球を見に行くときの、神宮球場と信濃町の往復の道中に建っていた。夜になると前面がライトアップされ、重厚な建物が暗闇にぽっかりと浮き出たように強調される。よく父親とヤクルト戦を観に行っていた小学生の頃から、この建物を目にしながら、異様な存在感も感じていた。当時は建物の名前までは知らなかったが、歴史的なものなんだろうなと思っていて、特にナイターの帰り、信濃町駅に向かう途中で見たライトアップされた様子に感激していた。つい数100m離れたところで鳴り物と歓声が響いている野球の喧騒からは独立して、まさに荘厳だった。
そんな絵画館を背景に、このBye Bye My Daysのダンスショットが撮られていた。もちろん、MVの中で思い入れのある建物が映ったというのはおまけに過ぎなく、純粋に曲としての評価をしているから好きになってこうして書いているのだが。

夢アドを知らなかった当時は、ルックスは良いのかもしれないけど、どうせ曲とかはやっつけなんでしょ?と曲を聴く前からあまりプラスでない印象を抱いていた。ファッション誌のモデル出身という、アイドルにしては珍しい出自に、デビュー時に完成された感を抱いていたからである。売り方も、ビジュアルが突出していて、それを前面に出せばそこそこ売れるので、そのぶん曲はそこそこに..というイメージを失礼ながら抱いてしまっていた。そんな失礼なネガティブイメージを払拭してくれたのがこの曲だった。かわいらしさを前面に打ち出した曲、と思いきやロックバンドが歌っても成り立ちそうなくらいかっこいいのである。キャッチーなギターのリフ、そしてベースの拍動とともに曲が幕を開ける。彼女らが歌いだすまでのこのイントロで、何かが違うと思わせてくれる。サビに向かいドラムが刻む、細かくなっていく拍が、新しいステージを駆け上がっていく高ぶりを示唆しているようで気持ちが良い。この後、夢アドはKEYTALKの首藤義勝や、ゲスの極み乙女。の川谷絵音といった著名なバンドメンバー提供の楽曲を歌うこととなるのだが、ロックとの親和性の高さを示してくれるさきがけとなったのがこの曲であったと思う。このようなバックミュージックを夢アドのメンバーが歌い上げる。モデル出身だからより堂々として見える、というのもあるのかもしれないが見とれるほどにかっこいい。これまでに実現していたのかはわからないが、ぜひライブでは生バンドで聴いてみたい曲の一つである。

歌詞も力強い。Bye Bye My Daysのリリースは3月の卒業シーズンにあったことや、グループとしてもインディーズからメジャーへとレーベルを移籍してのしょっぱなの曲だったこともあってか、卒業から次への旅立ち、あるいは古い自分からの決別を歌うような歌詞である印象を真っ向から受ける。

Bye Bye My Days 春に向かう この一歩は
Bye Bye My Days 進む決意 勇気が必要だけど


インディーズ、メジャーともに夢アドの楽曲は質が高い。もちろんこのようなロック調の曲だけでなく、かわいらしい曲も多くリリースしているし、この曲に次いでリリースされた「サマーヌード・アドレセンス」は、真心ブラザースの名曲のアンサーソングのような、原曲とは打って変わった大人っぽい曲のような曲も持ち合わせていたり、グループとして歌う曲の幅が広いことを示してくれていた。キャッチコピーにも「カワイイだけじゃダメなんですか!?」と銘打つくらい、ビジュアルだけで十分勝負できるのにも関わらず良曲を残し続けたのは楽曲派アイドルとしての面を間違いなく持っていたグループだと思う。


もともとの知名度の高さから、「天下を取る」にふさわしいと思われていたが、そこがアイドル業界の複雑なところである。数年後にはメンバー脱退もあり、最終的にはオリジナルメンバーは全員いなくなってしまった。しかし、看板としては夢アドの名前をしっかり残して、今も活動を続けている。そのいろいろあった歴史の中では、5年前にリリースされた、しかもオリジナルメンバーのメジャーデビュー曲である際のBye Bye My Daysは古い曲というところなのだろうか。しかし、新体制の応援歌としても十分ふさわしいこの曲、新体制後の曲に埋もれず歌い続けられてほしいと思うばかりである。


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