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2009年ヨーロッパぶらぶらno13 終わり パリの中国人
*この「ヨーロッパぶらぶら」は、元々2009年に作成した小冊誌の内容を、旧ブログで公開し、さらにそこから再構成したものだ。現在とは、ユーロ円の相場も、物価もかなり違う。日本でのアイフォン発売が、2008年にはじまったばかりで、スマホもなかった。ガラケーも電源を切ったまま旅行中は使わなかった。現在の海外旅行事情とは、状況が異なることを、お知らせしておきたい。
ささやかな旅からもどった2日後、新宿駅南口から出て甲州街道沿いに、以前アルバイトをしていた会社に向かって歩く。
アスファルトの歩道を踏みしめる足取りがおぼつかない。ふわふわしている。
ヨーロッパでは、ただの音でしかなかった人々の会話が、意味のある塊として耳に飛びこんでくる。不思議な感じだ。
それらに混じって、早口の中国語が聞こえてくる。中国人観光客が添乗員に先導されて街道沿いに歩く姿が目立つ。見慣れた光景だ。
当たりを見回しながら、楽しそうに写真を撮る人たちに、わたしは、自身の姿とパリの中華惣菜屋のイメージを重ね合わせていた。
パリではランチ時、仕事途中のサラリーマンや女性が、サンドイッチをほおばりながら歩いたり、ベンチでもぐもぐテイクアウトのサラダを食べたりしている。
一人で食べている人も多い。 それらの人々に混じって、こちらもアラブ風のケバブサンド、ファラフェル、クレープ、キッシュなどあれこれ食べる。割に楽しい。
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だが薄暗くなり、ディナー時になると、男女が肩を寄せ合ってどこかに消えたり、若者のグループが、ファーストフードショップでたむろしたりする姿が、目立つようになる。
1日の中で一番1人でいることを意識する時間帯だ。そんな時、安く気軽に食事が出来る中華惣菜屋さんによく足を運んだ。
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ショーケースの中の大皿に盛られた、炒飯、焼きそば、生春巻、野菜炒めなどをあれこれ見比べ、指差しながら注文する。 するとアジア系の店員が
「持ち帰りか、ここで食べるか」
と聞いてくる。
「ここで食べる」
と言うと、プラスチックケースにとりわけ、
「これ位でいいか」
という顔をして目で合図する。 わたしは「もっと入れて」とか「少なくして」などと、首を振って伝える。
レジに行き支払いを済ませて、奥の薄暗いテーブルが並んだ一角に座って待つ。注文したものがケースごと中華文様の皿の上に載せられてやってくる。
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同時に水のたっぷり入ったガラスポットも何も言わなくても自動的に置かれる。店員は目が合うとにっこりする。どこの中華惣菜屋さんも大体こんな感じだったと思う。
特に、わたしの目を覗き込むように、ゆっくり瞬きし、一瞬にして一日本人の孤独を読み取った店主男性の「ありがとう」の一言は、心に染みた。
これまで、わたしは、パリの食堂やカフェ、街角で見かける、アフリカ系、アジア系、アラブ系など、人々のグループを冷めた目で見ていた。どうして群れなければいけないのか、わからなかったのだ。
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今、わたしはなんとなくその居心地のよさをわかりはじめている。似通った文化、習慣に人は家庭を感じる。
そこに行くと自分はマイノリティーではない主流なんだ、と感じることのできる場所は、人に安らぎを与える。日本にいるとそういう感覚はわかりにくい。
パリに1ヶ月の語学留学をしていた時こんなこともあった。国際大学都市のあるパリ14区で信号待ちをしていると、腰の曲がった老婦人にいきなり手をとられて、
「あなたは学生ですか?」
と聞かれた。
さらに「あなたは中国人ですか?」と。
「いえわたしは日本人です」
と答えると、彼女は手を握り締めたまま、
「そう、パリに住んでるのね、わたしもそうよ。」
と嬉しそうに答え、立ち去った。
今わたしは、新宿駅からあふれでて来るアジア人観光客に親しみを感じている。
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