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ツイードが着たい!物欲に振り回される、横尾忠則先生の深いお言葉

1980年代に愛用していたJ&Rのツイードスーツや、どこかの地下街、メンズショップで衝動買いしたネップツイードのステンカラーコート、たぶん、ウールポリエステル混紡、風合いがとてもなつかしい。

または、18歳の頃、近所に住む洋裁学校出のおばさんに、縫ってもらった膝丈のタイトスカート2枚、ツイードの肌触りをいまだに思い出せる。当時、広島の金座街と本通りが交差した角にあったマルゼン?(現H&Mがある場所)、今でいうセレクトショップで買ったツイードのタイトスカーを連日履き倒していたら、ある日、前スリットが裂けかけワタシは恐怖を感じた。

そこで、現物さえあれば、完璧に再現できる洋裁の達人である近所のおばさんに「このスカートないと生きた心地しないから、お願いだから縫ってください」と頼みこんで、スカートの完コピをしてもらった。

その後2着のツイードスカートは30歳半ばまで着た。生地は、母がストックしていたものだった。本来は紳士用スーツに使う、茶系とグレー系のツイード生地、目の詰まったつぶつぶした織り目を今も頭ン中で再現できる。


この冬は、ツイードのコートを着ている人をよく見かけたから、ツイードが特別好きだという自覚はないのに、80年代に着たツイードを思い出してしまい、タチの悪い☆☆病に罹った。

いったん☆☆病に取り付かれると、特に洋服は手に入れるまで、それこそ夢に見るほど執着するから始末が悪い。しかも、物欲も強いが、どケチマインドも強い。

とても苦しいので、ツイードのコート欲しい!となった場合、合理的な解決策として古着屋を漁ることになる。セレクト系の古着ショップは、それなりのコンセプトを持って買い付けているので一般的に高額、もっぱら利用するのは大手リサイクルショップだ。

こちらは玉石混合、大量のゴミ同然にしか見えない服の山から、目当てのモノを探し出す、これは本当に楽しい。

ってことで、ツイードのコート、ツイード、ツイード♪…と唱えながら、リサイクルショップで掘り出したのが、トップ画像の、Spick & Spanのツイードコートである。

レディース、表地 ウール75%ナイロン20%絹5%、裏地ポリエステル100%とある。

日本製、大きな襟、膝丈、肩のラインがビシッと一致するジャストサイズ、ひとめ見て気に入り、何度も試着して買った。

税込4378円だった。でも、数回着た後、別のリサイクルショップに持ちこみ売った。4378円-1200円=2200円の損失である。

なぜ、そんなことになったかと言うと、ツイード+フリース生地のボンディング加工だったからだ。買う時、表示の毛75%の生地の匂いを確かめつつ、記憶の中のツイードの香りだ、と思ったが、裏地は、よくあるツルツルの裏地じゃなくて、フリース生地だった。

頭が???になった。コートの生地を指の間に挟み触ってみても、ツイードとフリースが一体になっている。しかもコートを着ると、シルエットが、フリースが裏張りになっているせいでピ~ンとなる。

記憶の中のツイードコートは、着ると、ツルツル裏地があるだけだから、ツイードの生地そのものの個性が、着倒すにしたがって顕著になり、日々の動きに沿って着崩れが起きてくる。

たぶん、フリースでボンディング加工、接着剤などで2つの生地を一体化させることで、ツイード生地だけでは出ない張り詰めたシルエットになる。ボンディング加工自体は、有名なところでは、マッキントッシュのゴム引きコートがある。特別、新しい技術ではないけれど、やっぱり、ツイード生地そのものを感じたい!そこが引っかかったから手放した。

ツイードを求める旅は、ふりだしに戻ってしまった。

再び、ツイードを求めて古着屋で漁ったけれど、前述80年代のような理想のツイード生地とは出会えない。

哀しいけれど、いったん保留。

困ったことに、ツイードの上着だけが、欲しいわけじゃない。
超絶欲しいモノリスト
①ユニクロの、ウール100%、メンズラムクルーネックセーター、2990円→1990円→昨日買いました。しかも3色買い。今素肌に着てこれ書いている。


②ブラックのウールコート、数年前、45Rのダッフルコートを購入したタイミングで、30年来のJUNMENのチェスターフィールドコートを処分したことを後悔、再び、ブラックウールコートを求める旅の途中。

③アディダススニーカーサンバ、10年近く購入を迷っている一品。

④チャンピオンか、ユナイテッドアスレの丸首スエット、肉厚……キリがない。

映画やドラマで登場人物が着ているアイテムが気に入ると、自動的に物欲リストが更新されるから、まさに無限ループ。

冬になって寒い→いつまでも寒い→買い集めたユニクロの薄手メリノウールセーターだけじゃ対応できない→大好きなGAPコットン厚手セーター3枚もある→でも、ユニクロのラムウ―ルセーターの厚みが、家で着るのにも、外出するのにもちょうど良い→いかにもウールといった風合いに惹かれまくり→やっぱり冬はウール→春秋もウール着るとしたら、薄手メリノウールセーターだけじゃなくて、ラムウ―ルセーターも、今の内に買っとくべきなんじゃ?→だって昨今、セーターのウール混紡率が減っている→焦る→ユニクロさんのウール100のセーターがセール価格1990円の内に溜めこむに限る。

という思考回路である。

いっぽう、すでにクローゼットにあるセーターたちも着倒したい願望がある。ここでまた買い足すと、ロクに着ないまま放置するセーターが増え続ける、ストレス。

気に入ったからといってイチイチ買っていては、一つ一つの服を着る回数は確実に減ってしまう。一度しかない人生、これっ!と閃いた服を買う、ことに異存はないけれど、買っただけで、クローゼットに眠ったまま、が耐えられない。

そこで、リサイクルショップに二束三文で売ったり、泣く泣くゴミ袋に入れたり、一時的にスッキリするけれど、しばらくするとジワリジワリ服が増える。

コレクション、という概念はワタシにはないので、気に入って買った以上、着ないまま処分というのは非常なストレスになるのだ。そこで、偶然見つけた、横尾忠則先生のお言葉は、力強くて深い。

(前略)物を持つことによって、大きい負担になる人は、さっさと断捨離でもなんでもして下さい。断捨離するかしないかは結局物に対する執着度の問題です。捨ててスカッとすると思われる方はそうして下さい。物の重みに耐え切れないで、息をするのもやっとという人は断捨離もいいでしょう。でも一方で中には断捨離した途端、シマッタと後悔したり、再び同じ物を買う人だっていると思います。

 この現代社会は何かにつけて生きにくいことには間違いありません。そこで生きやすい方法を考えた結果、どうも自分の所有物のせいではないかと、結論づけた人や社会が、そうだ、そうだと言い出して断捨離というインスタント悟りを得たのではないでしょうか。(後略)

たしかに。だから、モノを処分しても一時的にスッキリするだけで、根本的な解決にはなってないんだ、と思った。でもいっぽうで、世の中には、片付けることで日々の生活が上手く回る人と、ゴジャゴジャの環境で、整然と心穏やかに暮らしておられる人と、2通りの方がいらっしゃる。結局、断捨離も、向き不向き、がある。

(前略)僕は物を散らかすのは得意ですが、それを片づける能力は0(ゼロ)です。散らかった状態で実は整理されています。ある意味でアトリエの散乱状態がそのままイマジネイティブの宝庫になっているのです。アトリエが整理されて、何もないツルンとしたミニマルな状態になると、今の絵は描けないかも知れません。散乱状態はむしろ創造の多様性のルツボなんです。手を伸ばせば、すぐ引っかかってくる物こそが霊感の源泉になるものです。(後略)

ゴチャゴチャな心の中を映し出す部屋の状態は当たり前で、ワタシのようないつも混乱している人間には、スッキリした部屋のほうがよっぽど不自然、モノに囲まれることで、自分の心持はシンプルになる、と、都合よく自分に置き換えた。

前略、大げさに考えると生きることとは何かを探すことではないでしょうか。自分の考えが定まらなくって、あゝでもないこうでもないと、迷路に入ってしまうことってありませんか。絵を描くということは、丁度このような行為に似ているように思います。描いては消し、消しては描いている内に絵具の層は段々厚味を増していきます。この厚味というのが思考の迷いの層なんですかね。後略。

さらに、マガジンハウス「ポパイウエブ」で、横尾忠則先生の日々の着こなしを取材した記事も発見した。

前略、「僕はひとつひとつのものを、『このジャケット面白いな、この靴は面白いな』って自分の好みで買っているんですよ。そうやって買ったものだけを組み合わせれば、おのずと自分のスタイルになる。色が合っているとか合ってないとか関係なくね。『このジャケットは何色だから靴は何色で』とかって考えると昔のTPOファッションになって面白くないんですよ」、後略

POPEYE 横尾忠則の5つのスタイル。

そうだなぁ、と納得する。

断捨離=シンプルライフの幻想は終わりにして、ゴチャゴチャな心模様に似つかわしい空間こそ、ワタシに相応しい場所、と言ったところか。ワタシが混乱した心境から逃れられる時はたぶんない、来世でも混乱したままだと思うから。

買っては手放す、ではなく、ほんとに欲しいモノは味わい尽くす、たとえ、買ったままそこにあるだけでも、傍にあるだけでよい。本当に欲しいと思って買った、間に合わせのモノじゃないモノだったら、ただ自分と同じ空間にあるだけでよい、ってことかな?

しかし、このほんとに欲しいものって、なんだろう?という新たな悩みが出現、まさに無限ループ。


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