【超短編小説】リオネル・メッシは宇宙人
僕は世界一のプロテニスプレイヤーである。
僕のプレーはあまりに異次元すぎて、彼は地球人ではない、きっと宇宙人なんだ。
そんなジョークをとばされる程だ。
サッカーの、リオネル・メッシ選手もよくそう評される。
彼ほどの選手と同じ扱いを受けるのは光栄なことだ。
だが、僕はこのジョークが嫌いだった。
なぜ嫌いなのかずっとわからずにいたが、今日ようやくわかった。
宇宙戦争が起きた。
それまで影も形もあらわさなかった宇宙人たちが、大挙して押し寄せたのである。
僕ら地球に潜伏していた宇宙人は、突如自身の出自を思い出した。
「そうだった僕は本当に宇宙人だったのだ」
たとえば、このブサイクと言われて怒る人はいるだろう。しかし、このカラス野郎! と叫ばれて怒る人がいるだろうか?
悪口を言われているのだろうな、というのは伝わってくる。でもカラス野郎・・・意味不明である。怒る気にもならない。
逆にブサイクと言われて怒るのは、自分の中にそれが真実なのではないだろうか、という恐れが存在しているからなのだろう。
どんな美男子でもブサイク! と面と向かって言われて平然としていられる人はいないと思う。
いや、逆に美男子であればあるほど、顔の美醜に強いこだわりをもっていて、自分のここがもう少しこうなっていれば・・・
などと考えるかもしれない。
人間の欲にはきりがないから。
だから、僕が宇宙人と冗談で言われることに、不快感を抱いていたのはそういうことだったのだ。
僕は本当の事を言われていたから、無意識のうちに傷ついていたのだ。
そうだったのかと、妙に納得してしまった。
ところで、僕は母船の中で当然いるであろう、“彼”を探してみた。
だがいない。どうして・・・??
「ああ、そうか・・・
彼は本当にすごい“地球人”だったんだな」
僕は遠ざかる仮住まいの星、地球を眺めながらつぶやいた。
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