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ビリビリに破かれたポスターに涙した日

現在無職、絶賛引きこもり主婦爆進中のねこ山ねこ子です。

仕事を辞めてからというもの、人付き合いは無に等しいですが(今日会ったのは夫だけ、という日もザラ)、この状況でなくても私はもともと友達が少なくて、あまり人と深く関わることなくここまで来ました。
年々その傾向は強くなり、今がその集大成という感じです。

で、ふと思ったんですよ。
そういえば、子供の頃は自分のまわりにもっと人がいたような気がするなぁと。

小学校の3、4年生頃までは、それこそ「ザ・昭和の子供」って感じで、学校が終わると近所の子供達で集まって空き地(今あるのかな)で暗くなるまで遊んでいました。

よく覚えていないけど、いつも遊ぶメンバーは昼間家に親がいない子がほとんどだったんじゃないかな。(うちも親が共働きで、いわゆる鍵っ子でした)
だから結構遅い時間までみんなで遊んでた。
その中に同級生はいなくて、自分より少し年下の子ばかりだったと思います。

で、ある時期メンバー全員が夢中になった遊びがありまして、それは「劇」をやること。

もちろん脚本や演出のある本格的な劇ではありません。
ちょっとした寸劇のようなものです。

どんな内容だったか詳しくは忘れてしまいましたが、私がストーリーを考えて(たしか風変わりな王様が出てくる話だったような…)、あとはみんなで相談しながら細かいセリフとか動きを決めていった気がします。

今考えれば単なるごっこ遊びの延長なんですけど、このときは全員、子供劇団の団員にでもなったようなつもりで真剣にやってました。
ちなみに練習場所はいつもの空き地でした。

いよいよ劇が完成すると、「どこかで発表したいね」という話になりました。
みんなで力を合わせて作った劇を、せっかくなら誰かに観てもらいたかった。

そこで、当時ボロい借家住まいだった我が家の六畳間で、にわか子供劇団の初舞台講演が行われることになりました。

衣装なんてものはなく普段着で、小道具は家にあった洗面器とかを使ったような気がします。(いったいどんな話だったんだ)
で、観客は私の妹やメンバーの小さな兄弟達。
私は母に頼んで、観客のためにちょっとしたお菓子を用意してもらいました。

そんなあり合わせの舞台でしたが、結果は大成功。
とても盛り上がって、みんなが笑顔になって本当に楽しかったのを覚えています。

で、私はこんな楽しいことをもっと沢山の人と共有したいと思いました。
より多く人と同じ経験が出来たら、きっともっと楽しいだろうなと考えたのです。

そこで私は劇団員を募集することにしました。
「新規劇団員求む!」のポスターを作って(もちろん手書きで)、意気揚々と町の電信柱などにペタペタ貼っていったのです。
もちろん勝手に張り紙をしてはいけないなんて微塵も頭に浮かびませんでした。(すみません!)

ポスターを貼った日は、明日どれくらい入団希望者が来るかなぁとワクワクしながら眠りにつきました。
よく考えれば、子供が作った怪しい手書きポスターなんぞに応募する人なんているはずがないのに。

翌日は学校がある日でした。
いつものように教室に入ると、なんとなく空気が違うのに気が付きました。

みんなが息をひそめて、私を見ているのです。

原因はすぐに分かりました。
私の机の上に、昨日作ったポスターがビリビリに破かれて置いてあったのです。

それを見た瞬間、(あ、私やらかしたんだ…)と察しました。

背中のほうから、クスクスと笑い声がします。
頭が真っ白になりました。

そのあと、クラスメイトから直接からかわれたかどうか全く覚えていません。
帰る時間までの針のむしろを、どんな風に耐えたかも。
私にとっては机の上のポスターだけで充分な衝撃でした。
たぶん誰とも何も話さずに家に帰ったんじゃないかと思います。

その日、私は学校でも家でも実際に涙を流すことはありませんでした。
上手く言えませんが、泣いてしまうと惨めな自分が「確定」してしまうような気がしたのです。
もうすでにクラスメイトからは、相当イタい奴と思われているのに、変ですが。

そのかわり心の中では、おもいっきり泣きました。調子に乗って馬鹿なことをした自分を責めました。

その後の子供劇団ですが、講演は後にも先にもあのときの一度きり、新作をやることはありませんでした。
そして私は、いつの間にか放課後に仲間と遊ぶことも辞めてしまいました。

その頃からだったと思います。
何か行動する度に(これはやってもいいことなのか、誰かに非難されないか)と常に考えるようになったのは。

ぐるぐる考えに考えて、大丈夫そうなことだけやる、みたいな。
そこまで考えてやったのに失敗したときは(なぜ、どうすればよかったのか)と、またぐるぐる考える、みたいな。

でもずっとそんなことをやってると疲れるんですよ。
疲れるから(じゃあ誰とも関わらないほうが、いろいろ考えなくていいから楽だ)ってなったんですね。

そこからどんどん人間関係を削ぎ落としていって、その結果…引きこもり主婦の出来上がりです。

なんとまあ、しょうもない人生。
でもやり直したいとは思わないんです。
どんな道を歩んでも、結局それなりに大変なことはあったと思うから。

でも一瞬だけ、あの破かれたポスターの前に立つ自分に戻れたら、と考えることがあります。

そして勇気を出してクラスのみんなに「劇ってすごく楽しいんだよ。一緒にやらない?」って言えてたらどうだったかな。
「今度の日曜日、3時から新作の練習するから興味があったら来て」って。

結局誰も来ないかも知れない。
でももし言えてたら。
今も私の心の奥で、破れたポスターを握りしめながらはらはらと泣き続けている少女は、ひょっとしたらいなかったかも知れない、と思うのです。

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