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バカヤロウ、なんでオマエだけ若いままなんだよ。

今年も、また六月が来た。

Iが亡くなってから二十年目の六月。

どんなに月日が経っても、私はまだIの事を忘れられないでいる。というか、忘れられっこないのだ。

Iは中学の同級生だった。いつも笑顔で、お調子者で、よくくだらないダジャレを言っては一人でウケていた。そんなIを見ると、こちらもつい笑ってしまう。目立つタイプではないけれど、面白いヤツ。Iはそんな存在だった。

「おーい。ねこ山、消しゴム忘れた。貸してくれ」

「はいよ、どぞ」

貸した消しゴムを手にしまま、Iはニマニマしながらこっちを見ている。

「(コイツまたしょーもない事言おうとしてるな)なーんだよ」

「なあなあ、ねこ山。アリが、さんじゅうごひき引く、にじゅうごひき〜」

「ハイハイ、ありがとう、ね。ったく、普通に言えよ(笑)」

「ギャハハ」

何故こんな小さなやりとりを覚えているのか自分でも不思議だが、Iといる時の私はいつも笑っていた気がする。

比較的仲の良かった私達のクラスは、卒業後もクラスメイトだけが集まる同級会をコンスタントに開催していた。同級会の席でもIは相変わらずだった。面白い事を言おうとしてはスベって、でも楽しそうだった。

そんなIが亡くなったのは、社会人になって十五年ほど経った頃に開かれた同級会のあとだった。

その日、私はたまたま都合が悪く出席出来なかった。なので詳しい経緯は分からないのだが、Iはアルコールを飲んでそのままバイクを運転して自宅に帰ろうとしたらしい。そして途中の高速道路で事故を起こし、帰らぬ人となった。

Iが最初からバイクに乗って帰るつもりだったのか、なんらかの事情があったのかは誰にも分からない。

ただ、その何年かあとの同級会でIの話題になった時、一人の男子が「あの日、アイツがバイクで帰ろうとしてるって知ってたら俺、力ずくでも止めたのに」とボソリと言った。自分を責める様な言い方だった。その気持ちが分かり過ぎて、つらかった。

地元に残っている同級生達は、今でも毎年六月になると日にちを合わせてIのお墓参りをしている。

県外組の私はなかなか参加する事が出来ないが、同級生同士で作っているLINEグループで「今年はいつにする?」みたいな話が出ると(ああ、またこの季節がやって来たんだなぁ)と思う。

そしてあの笑顔を思い出しながら、心の中で天国にいるIに向かって言ってやるのだ。

Iのバカヤロウ、なんでオマエだけ若いままなんだよ。

私達はみんなシワが出来たり、白髪が生えたり、お腹が出たり、ハゲたり……もうクラス全員いいおじさん、おばさんだよ。

なのになんでIだけ三十代のまま止まってるんだよ。

バカヤロウ、

みんなで一緒に歳をとりたかったよ。

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