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3.半吉の急性期について

脳卒中発症後の時期はいくつかに分けられる。急性期とは発症から約2週間の時期を指すようで、その後回復期と呼ばれる回復ボーナスタイムを6ヶ月ほど(諸説あります)経て、生活期つまり日常の生活に戻っていく、というものらしい。

右片麻痺になった僕は、急性期の真っ只中であった。そして人生初めての長期入院生活に突入した。

5月11日
とりあえず介護士のお兄さんに手伝ってもらい、持参のバリカンで頭を丸坊主にした。なぜか長期入院は坊主のイメージがあった。丸坊主にしたら何かリセットしたような気持ちになり、前向きに頑張ろうと思った。

今思えば賛否両論ありそうだが、僕は勝手に利き手を交換することにした。すんなり右手を諦める程、感覚がなく、動く気もしなかった。そして鉛筆を持つ練習を始めていた。食事も左手でスプーンを持って食べた。

姉が介護箸をくれたので、箸を練習した。この時もらった介護箸は右利きというのに後で気がついた。

この時期からリハビリが始まった。何のリハビリかも時間も知らされてないが、部屋にセラピストさんが来てくれる。リハビリの部屋に連れてってもらい、色々なことをする。

何かを頑張りたいと思ってた僕にとって、利き手交換以外でできることはリハビリしかなかった。

当時はわからなかったが、リハビリには3つあった。詳しい人が見たら怒られそうだが、言葉のリハビリをするSTさん、足のリハビリをするPTさん、手のリハビリをするOTさん、と僕は認識している。

言語のリハビリで今日の日付や、いくつかの単語を覚えるよう言われたが、全くできなかった。右という漢字も読めなかった。メリーゴーランドという言葉が1日経っても浮かばなかった。100から7を引くことができなかった。失語症という後遺症の詳細な説明を受けたのもこの時だった。

足のリハビリで車椅子から立ち上がるリハビリをしたが、立てなかった。膝が抜けるという現象も初体験した。

手のリハビリで、右手をマッサージしてもらったが、全く感触がない事がわかった。OTの人に、どれくらいの割合の人が回復するのか。僕はの手足は良くなるのか。呂律の回らない言葉とスマホを使って質問しまくった。

この時期になると僕の体から伸びた管は外され、トイレに行けるようになるが、もちろん一人では行けない。ナースコールで人を呼んで、車椅子に乗せて貰い、トイレまで連れてってもらう。そこでまた車椅子から便座に乗せて貰い、用を足す。ちなみに僕はこの時、人にトイレを見られるとかそういった事はなぜか全く気にならなかった。

便座にたどり着くまでに、いくつものハードルを超えてもらって用を足すのに、何も出ない時がある。夜中にこれをやると本当に気まずかった。この病気になると、頻尿や便秘など両極端な症状が出やすいらしい。

これは僕だけの症状かも知れないが、その時僕はパンツで隠れている部分の構造も忘れていた。どこから何が出て、どうなっているのかわからなかった。しばらくの間トイレットペーパーで拭くのも違和感しかなかった。

この時はまだこの病気についてそこまで知らず、ただただ、日常生活のためにリハビリし、日々を過ごしていたように思う。


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