いじめアイコン


いじめ対策アプリ「いじめアイコン」 政府の意向により義務化か

歩きながら画面をじっと凝視する少女は、足を止めることなく表示されている見出しをスクロールしていく。

現在急速に広まっているいじめ対策アプリ「いじめアイコン」。このアプリは去年の5月にリリースされ、従来のアプリに比べて高い匿名性やいじめの被害者へのサポートが手厚いことが特徴である。調査結果から、とくにいじめの件数が多い小学校低学年から中学生の間でダウンロード数が増えているとのデータも明らかになっている。
そんな「いじめアイコン」だが、昨日アプリダウンロードを義務化するとの声明がデジタル庁から発表された。対象は小学生から大学一年生までの携帯端末機器を持つ親子全員だそうだ。

記事を読みきると、画面を閉じポケットにしまってその少女は少しスピードを速めて歩き出した。

きっかけは何なのか分からない。移動教室への移動の時に置いていかれたり、いつも一緒にいたグループの子をお昼に誘っても断られるようになった。一回だけなら偶然で済んだかもしれないが二回、三回とそういったことが続き、ついには私が話しかけても無視されるようになった。自分からグループだった子達に話しかけることができなくなった。その雰囲気がクラス中に伝播し、クラスから孤立した私は不登校になり今でも学校に行けてない。
そんな時「いじめアイコン」というアプリの義務化をニュース記事で知り、インストールすることを決めた。アプリを開くと、いじめの体験談からいじめの相談機関のリンクがまとめられている投稿がずらっと並んでいる。その中にいくつか投稿主のアイコンがハート型のリボンがうつっているものになっており、それはどうやら現在進行形でいじめられている人を表しているアイコンらしい。そのアイコンの人は皆、辛い経験や悲痛な本音を殴り書きのようにして投稿していた。自分より遥かに辛い思いをしている人達がたくさんおり、様々な投稿を読んでいく内に胸が苦しくなった。ふと、それらの投稿の中で自分と同じように無視や仲間はずれから学校に行けなくなってしまいどうすればいいのか分からないという内容の投稿を見つけた。同じように苦しんでいる人を見かけ、居ても立っても居られなくなりメッセージを送った。

こんにちは。私もあなたと同じように友人から無視されてしまい学校に行けなくなってしまいました。とても境遇が似ていたのでついメッセージしてしまいました。ご迷惑でしたらすみません。

翌日私のメッセージにぜひお話がしたいとの返信がきて、相手の「小夏さん」とお話しする機会が増えた。お互いのいじめの当時の状況を話し合ったり、趣味や好きなものについて話したりと「小夏さん」は顔の見えない相手だったがこの一、二ヶ月でとても心を開ける相手になった。
しかし、義務化されてから時間が経つごとに「いじめアイコン」を使う人の母数が増えていき、それに伴って高い匿名性を利用した誹謗中傷をする人が現れ始めた。いじめを受けた人の辛い経験を書いた投稿に、「いじめられる奴が悪い」「被害者ぶるな」などと言ったコメントが書かれた。そうした騒動が広がったからか、最近では投稿をする人がぱったり減り、ニュースでは「いじめアイコン」での誹謗中傷を受けたことが原因で自殺する人がひっきりなしで報道されている。政府は、この状況を打破すべく「いじめアイコン」というアプリ自体を廃止しようとしているそうだ。「小夏さん」ともすっかり連絡がとれなくなってしまい、私のメッセージも見ていない。私は親友を失ったような気持ちになり、せめてアプリが廃止になる前にもう一度話したいと携帯を握りしめた。すると携帯からブブッと通知音が鳴った。「小夏さん」からだった。

昨夜11時頃マンションの屋上から××市立〇〇中学校の一年生小川夏美さんが飛び降り亡くなりました。夏美さんは飛び降りる直前いじめ対策アプリ「いじめアイコン」にてメッセージを送っておりーーーーー

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