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トルストイ ☆96

私は共産主義者ではない。

今時流行らないから、それは日本では普通のことだが、

でも、1980年代の終わり頃まで、池袋に行ったら駅でビラ配りしている左翼の人を見かけていた(左翼が必ずしも共産主義者とは限らないが)。ヘルメットにサングラス、マスクして、当時でもかなり時代錯誤感があったが。

高校の時、トルストイを読んでいたが、それを読むと共産主義の考え方も至極真っ当なような気がしたものだ。

この世には何故、

生まれながらにして大富豪の貴族と、極貧の農奴が存在するのか?人は大地を大威張りで闊歩しているが、

そもそも大地は人間だけのものではない筈だ、誰かが固有の土地を所有するのは間違っている。地球はみんなのものだろう?みんなの土地だ。

なんて、思ってしまう。農奴達を解放して、みんなで土を耕し、作物を分け合い、平等に、幸せに暮らす、とても素晴らしい考えではないか?

トルストイの文章には説得力があるのだ。彼が生きていた頃は、世界中の人々が影響を受けた、レーニントーマス・マンガンディー、など、

日本では、森鴎外武者小路実篤宮沢賢治など、共産主義的な考え方は世界を席巻していた時もあったと思う。

私が子供の頃は、『世界の偉人伝』的な子供向けの図書があって、その中には『毛沢東』も存命中なのにその名をタイトルに連ねており、読んでみると

「毛沢東こそ世界で最も偉大な英雄だと思います。」

「世界史ではナポレオンチンギスハーンなど沢山の英雄が登場しますが、彼らは大勢の人々の命を奪い、死に追いやって英雄となりました。が、毛首席は違います、彼は沢山の人々を解放し、飢えから救い、みんなを幸せにして英雄となったのですから。」

などという事が書かれていたのである。(こんなの小学生が読んだら洗脳されそう)

もちろんこれは大嘘で、竹のカーテンに阻まれて西側諸国には中国の実情がぜんぜん伝わっていなかったから、共産主義の国はユートピアだと本気で思い込んでる人もいたのだ。西側の知識人達にも相当数の毛沢東支持派が居たのである。

私は、子供の頃から誰よりもファーブルに傾倒しており、ファーブル先生は科学者であり、黙々と努力を重ねて来た人だが、ずっと貧乏暮らしで(晩年は少し報われたが)、誰よりも努力家で、とても現実主義者だったせいか、共産主義を毛嫌いしていた、

「誰にも富を平等に分け合うなら、怠け者だけが得をするじゃないか、そんなもの上手く行くはずがない」と言ってたようだ。

私はトルストイよりファーブルの言を信じていたが、果たしてその通りだった。社会主義国家は次々と崩壊していった。

その後、鄧小平が実権を握り社会主義国家なのに自由主義経済を取り入れるという離れ技を行い、頑張った者が成功するシステムにしたら見違えるほど経済は発展した。

しかし、この起死回生の一手も、もはや風前の灯火のようで、今や中国はガタガタだ。

権力を握る一部の人間のために、打てる手も打てず、ただただ国家が崩壊するのを待つばかりのようである。なんて愚かな。

言っておくが、私は中国が好きである。中国を旅していて、現地の人達に沢山やさしくしてもらった。愚かなのは中国共産党上層部なのである。

共産主義的な考え方そのものは悪くないのだけれども、あまりに理想論すぎる。現実の人間はそれを活かせるほど賢くはないし、勤勉でもない。

国家レベルでなくとも、そのような理想を掲げたコミューンはあるが、能力のある指導者が元気な内は良いが、時間と共に萎んでしまう、形骸化する。

なら、民主主義のアメリカが良いかと言えば、それはぜんぜん別問題だが、

トルストイの夢は、無惨なものになってしまった。

やはり、土地の所有は認めてあげないと、頑張れないのだろう。

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