5minutes before

「どこで間違えたんだろうな」

答えが欲しかったわけじゃない。ただ呟いただけ。
街で一番デカい病院の中の、暗く、狭い部屋。
どこかわからない。やつらから……いわゆるゾンビとでも言えばいいのか……生きてる人間に襲いかかり、食いつき、殺し、食いつかれた人間もやつらの仲間になって、数を増やして襲いかかってくるバケモノどもから逃げて逃げて逃げて、行き着いた先がここだった。

「ごめんな」

「いいよ」という許しを期待したけど、そんなものは返ってこなかった。
謝罪の声の先にいる俺の妹は、やつらにやられて虫の息だ。もうすぐ死ぬ。一緒に逃げた医者に診てもらったから間違いない。

妹は難病で、今日退院だった。俺は妹を迎えに来て、一緒に返って何か美味い飯でも食わせてやるつもりだった。家にはケーキだって買ってあった。

それがもうすぐ、全部無駄になる。手は尽くした。俺たちはここで皆死ぬ。食い殺される。
……だというのに、さっきから医者は病院内の地図をずっと見ている。

「ここか?このルートなら行けるか?」

この部屋の出入り口は一つで、その扉にはゾンビ共が群がっている。ここからどこにも行けない。
なのに、何故?
俺の疑問の視線に気付いてか、その医者は——思ったよりも若いが名医らしいそいつは——言った。

「信じてもらえないかもしれないですが、僕は五分前に戻れるんです」

「は?」

「五分前、僕はここにいました」

医者は地図の一点を指差した。

「ここからリスタートしてもゾンビに囲まれるだけでしょうが……今地図を覚えたので何とか逃げ切って別ルートにいけるかもしれません。あなた方を助けられるかどうかまではわかりませんが、それでも何か出来ることはあるかもしれない」

真面目な顔で、医者は淡々と語った。
そして「それでは」と言って、どこかに——五分前に——行こうとしたその瞬間、俺は叫んでいた。

「待て!俺も戻れる!」

「え?」

「俺も戻れるんだ!五分前に!」

(続く)

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