美容室の怪⑨

“あの日”から数日後のことである。

わたしは、部屋の中でずっと考えていた。この日は会社も休みで、本来ならば、どこかに遊びに行ったり、洋子とお茶をしたりしたいところである。

しかし、この日、わたしは一人暮らしの部屋にいた。

わたしは、何か、とても重大な局面を迎えているような気がしていた。

このモヤモヤはなんなのだろう。

ずっと考えていた。

このモヤモヤの正体は、一体なんなんだろう。あの美容院のことであることは間違いない。

もう、あの美容院に行かないことによる寂しさなのか?

いや、それもあるようだが、モヤモヤの正体はそれではない。

客がキレるところを見ていないことが原因か?

わたしは首をブンブンと振った。違う!どれも違う!雨が降っていたのに快晴になったからか?

それも違う!それは不思議なことではあるが、自分の“今、迫りつつある”重大な局面には関係しない。

なんなんだ!!

このモヤモヤの正体は、一体、なんなんだ!!!

ハリセンの感触を覚えていないことか?

最後のハリセンだから、しっかり味わいたかった?

違う!!

それではない!

しかし、待てよ。

突然、わたしの体に恐怖が押し寄せた。

違う!最後のハリセンの感触を!忘れていたのではない!!

忘れていた!のではない!

叩かれなかったのだ!!
最後に、ハリセンで、叩かれなかったのだ!!!!
あの日だけ!

なぜか!!ハリセンで叩かれなかったのだ!!

わたしの思考を突然、さえぎる音がした。

ピンポーン
ピンポーン

インターホンを鳴らす音。

セキュリティ用の画面をオンにする。

そこに立っていたのは、ハリセンを持った鈴木さんだった!!!!

わたしの頭の中に、貴婦人に後ろからハリセンで襲いかかった白田さんの姿が浮かんだ!!怖い!怖い!怖い!!

そうだった!

ハリセンで叩くのを忘れてた場合は、後からでも必ず叩かれるのだ!!!!

必ずだ!

どうしよう!警察を呼ぼうか?

ピンポーン

ピンポーン
ピンポピンポーン
ピンポピンポピンポーン

やめて!怖い!今日はここにはいない!いないのよ!

帰って!!

よ、洋子に電話しよう!!

そう思ってわたしは、自分のスマホをポケットから取り出した。

すると、リリリリリーン!リリリリーン!

と家の固定電話がなった。三ヶ月ほど前に、仕事に必要になるからとファックスといっしょに取り付けたものだ。

かかってくることもないので、ほとんど留守電設定にしてある。

ピーピーと音を立てる。

「ご用件のある方はピーという発信音のあとに、ご用件をお伝えください。

ピー!!」

電話の声は、鈴木さんからだった。

「そこにいるのは、わかりまくりボンバー!はあっはあっはあっ!!こないだ、ハリセンで叩くのを忘れてたもんで、橋本さんのことを探しはじめたマイレボリューション〜♫明日をつかむこーとさ〜♫

ひっひっひっひ!

いーっひっひっひ!!」


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