58 恩人
58【恩人】
僕に電話をかけてくる人間など、普段はいない。
僕が電話をするのは自分の彼女ぐらいである。
R1グランプリでの屈辱の一回戦敗退の二日後には、のちにお世話になりまくる恩人の先輩芸人からメールが来た。
【今日よかったら、飲みにでも行きませんか?】
僕は、返信した。
【すいません。今日は愚痴の酒になってしまうので、辞めておきます。元気になったらこちらから誘わせていただいていいですか?】
僕は酒を飲んで愚痴る奴が大嫌いで、そんな奴の愚痴を受け止める優しさがない。
今は人の愚痴は、人によっては聞いてあげようという優しさがある。しかし、その当時は愚痴を言う奴は大嫌いだった。
当然自分がそうなるのもイヤなので、大体、飲みに行った時に愚痴を言うことはない。ふざけ倒すように意識している。
しかし、この時は、その自信が飲みに行く前から全くなかった。
ゆえに、最初から断った。
後輩のくせに、スケジュールのら都合ではなくメンタル面で断るなど、レアで失礼なのだが、その恩人は【愚痴ってくれたらいいのに。でもわかりました。ご飯今度いきましょう!】と返信をしてくれた。
恩人、と簡単に書いているが、この時点で僕はこの人と、舞台で会った時に喋る程度であった。
毎回会うたびに僕を褒めてくれ、なんでこの人はこんなに僕に優しいのだろうと、不快ではない違和感を感じていた。
しかし、R1に落ちたことで、まさか飲みにまで誘ってくれるとは。
なぜこんなにしてくれるのであろう。
変な奴である。
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