57 引退

57【引退】

僕は、結果に対しては、言い訳しない。いや、特にできないのだ。

あまりウケなかったからである。

たかが一回戦で足元を救われるとは。

そう思っていた。

恥ずかしくて仕方なかった。

優勝すると豪語していたのに、準決勝までしか行けなかったとか、優勝すると言ってたのに、三回戦までしか行けなかった、とか、その程度の想定はしていた。

しかし、まさか一回戦敗退とは。

その頃、界王拳三倍を使い果した上で結果も惨敗した反動がどっぷりとやってきた。

毎日酒を飲んでは、毎日泣いていたのだ。

恥ずかしい(笑)。
何を泣くことがあるねんと今では思うが(笑)。

なぜか、体が痒くて仕方なくなり、アトピーデビューという別に目指していない分野でインディーズレーベルから出世した。

医者に言わせると、ストレスが原因らしい。

僕は辞め時を探していた。

頑張ればまたウケる、とかそんな風には思わなかった。

なんせ界王拳三倍である。

バトルで落ちたら、引退しよう。

そう思っていたら、バトルですぐに落ちた。引退決定である。

僕は、今まで、大切なことは誰にも相談せず決めてきた。人に相談するのは、単なるかまってちゃんだと思っていた。

事実、コンビの解散を切り出すのはいつも僕だったし、芸人を辞めるのも誰にも相談していない。

辞めようと思う、というレベルではなく、辞めたのである。

そもそも僕は、止められるのが嫌いである。

めんどくさいからである。

あとは、いつ事務所に言いに行こうかな。
そういう状態だった。

止められるのは、僕は本当に嫌いなのである。

「芸人やめようと思うねん」

「え。嘘やろ。考えなおせって」

という会話があるとする。

これは、とめられてるのではない。

脊髄反射である。

そう思っていたし、今でもわりとそう思う。

人間は反射だけの優しさを見せる。そんなことをアテにする弱い人間であってはならない。脊髄反射で止めてくる人間は、僕の人生を背負ってるわけではない。

事実、誰にも言わなかった。

しかし、心配してかかってきた何本かの電話に嘘をつくことはできなかった。

聞かれた時に嘘をつくのは、それは失礼すぎるというものだ。


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