美容室の怪③
「そうやねん、あそこな、絶対に終わったらハリセンで頭をバチーンって叩いてくるねん」
「ようこも、そうやったの?」
「そうやで。最初、さすがにこれは怒らないとあかんかなと思ったけど、でも、わたしにだけやってるんじゃなくて、みんなにやってるんかどうか、そこぐらいを確かめるまで待とうと思って」
「あ、いっしょいっしょ(笑)。わたしも、そうやった。キレるのはそれからでも遅くないと(笑)」
「そしたら、全員にバチーンってやってた。よう考えてみたら、美容院【ハリセーヌ】はハリセンからきてるんかもしれへんわ」
「え、なんなんやろ。意味がわからへん」
わたしに美容院【ハリセーヌ】を誘ってくれた洋子。
洋子も同じ目に遭っていたのか。わたしの感じた不思議な連帯感を知ってか知らずか、洋子は話を続けた。
「わたしね、始めて行った時にめっちゃ怖かったのがさあ」
「うん、何かあったん?」
「その、ハリセンでバチーンって叩かれたあとに、他のお客さんもバチーンって叩かれてるのを見てさ、一応怒るとかは、やめたわけ」
「うんうん」
「でも、なんでかな、とかは気になるやん。美容院の名前【ハリセーヌ】やしさ。それで、そこの美容院の中に置いてある、美容院のパンフレットみたいなのをパッととって、どこかにそんなん書いてないかなと思ったんよ」
「あー、なるほど」
「いきなり客の頭を叩く美容院なんておかしいやん?」
「せやから、どっかに書いてあるはずやと(笑)?」
わたしは笑いながら洋子に答えた。
「せやねん。で、パンフレットみたいなんを読んでたらいつの間にか、鈴木さんが後ろに立ってて、後ろから、『そんなん書いてないよ!探してもないよ!』って言うてきてん」
わたしは恐怖で一瞬、止まってしまった。
「え?怖っ!怖っ!なにその話!?」
「怖いやろ!?『そんなん書いてないよ!探してもないよ!』やで。わたし、なにを探してるとか、なんも言ってないのに。しかも、その時の鈴木さんの顔が、なんとも言えず、笑ってるけど、目の奥が氷のように凍てついてるっていうか」
「ほんまに、洋子の作り話ちゃうの(笑)?勘弁してほしいわ、いや、怖すぎるやん、それ!」
「わたしも、怖かった(笑)。結局、なんも言わずにそのまま帰ったけどね」
喫茶店に少しだけいるはずだったのが、わたしは、洋子のその話に惹きつけられ、長居してしまった。
『そんなん書いてないよ!』
パンフレットを読んでいるだけで、まだ何を探してるとか、何も言っていない人間に、そんな風に話しかける人がいるだろうか。
あの鈴木さんという人は、心が読めるのだろうか。
どういう人なのだろうか。
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