53 葛藤

53【葛藤】

震災が起こる前は、解散発表を早くしたくてウズウズしていた。

しかし、そんな呑気な発表をしている場合ではないことは会社のマネージャーも僕も花岡もよくわかる。

当然、発表は時期をズラされた。解散発表は、無期延期のような状態だった。

震災が起きてから、解散発表までどれぐらい経ったのか忘れてしまったが、とにかく発表した時は、たくさんのファンが泣いてくれたようだ。

ファンレターにも一枚も返事をしたことがない僕は、解散発表した時のコメントには、すべてに丁寧に返事をした。200件とか300件ぐらいはあったんじゃなかったかな。

僕は自分勝手な人間である。自分の境遇のことを生意気にも不幸だと思っていた。コンビを解散してしまったので、今まで書いてきた1000本を超える漫才、200本を超えるコントはどうなるのだ、と思っていた。

あえて不謹慎なたとえをすると、努力がすべて、津波に流されていった気持ちである。

そんな僕は、実際の津波を見た後で、打ちのめされた。

俺のどこが不幸なんだ。

そして、次に湧いてきたテーマはこれだった。

これから、どうすればいいのか。

今、のんきにお笑いなんて、やっていいのだろうか。

震災の当日、いい女を抱くから募金くれと言っていた男は、4/28(日)にチャリティーライブをして、本当の募金活動をすることになるのだった。

パピヨンライブ。

当時飼っていた、パピヨンのパピちゃん。

そこからつけたライブ名である。


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