63 フリー

63【フリー】

僕は一度、辞めた人間である。正確に言うと、心の中だけではあるのだが。

意識の中で、どうせ俺は一回やめた人間だし、という開き直りが生まれた。

やりたいことをやろう、そう思い、長らくお世話になった、よしもとは辞めた。

僕をストリップ漬けにした、人助けオバケの僧侶をはじめ、誰にも相談せずに、マネージャーに連絡をした。

僧侶には、さすがに、普通は相談するだろ、という顔をされたけど。

さて、フリーになって、最初のほうは、何をしたか。

毎月新ネタを10本おろす単独ライブ【泣き虫ライブ】というものを一年と半年やった。

お笑い好きなら分かるが、単独ライブというものは、ネタを10本もする芸人はほぼいない。

多くて7本ぐらいである。

そして、毎月やるものではない。

僕は、毎月10本の新ネタをやり、一年と半年近くで、累計170本の新ネタをやったわけである。

毎月、といっても、日付はバラバラなので、ひどい時は、新ネタを10本やったすぐ一週間後に新ネタを10本やった。

その時はさすがに、しんどかったが(笑)。

自分にしかできなくて、人も喜んでくれそうなことを考えた結果、この泣き虫ライブという発想になった。

ネタを書きまくることができることと、そのクオリティが高いことを証明してやろう、という自分への挑戦でもあった。

このやり方で、結構良かったと思うことがある。

これは、千本ノックなのだ。

千本ノックをすると、体が壊れないように、自然と楽な動きをするようになるというのを聞いたことがある。

毎月ネタを10本やると、同じ現象が起こる。

僕は全盛期には一ヶ月で20本から25本は書いていたが、書く本数と、お客さんの前でやる本数とは、その“重み”は全く違う。

覚えるしんどさ、やらないといけないしんどさ、ウケないといけないしんどさがある。

バカみたいな日本語をつかったが、要するにしんどいのだ。

となってくると、ですね。

手は抜かないけど、力は抜けたネタがどうしても、10本もやるうちに、1本や2本は出来てくる。

「無茶苦茶やけど、もう、これをやっちゃう(笑)?」みたいなネタである。

この力の抜けたネタが、たまに化けるのである。

もちろん、大コケすることもあるが。


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