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正欲

書き出しから好みど真ん中だった。世間の既定路線からはみ出してしまっている者の生きづらさが鋭く、しかし粘り気なく描かれている。主人公の一人は自分がはみ出していないと思ってる側の人間なのも良い。

クリスマスの季節に恋人がいない人の居心地の悪さを濃縮して伸ばしたのだが、不思議とすっきりとしている。登場人物達の中で深く感情が渦巻いているのに対し、時間は機械的に進行している様に見せているからかもしれない。

孤独が深すぎて妬みや嫉み等の感情はなく、しんとしている空間に連れて行かれる。起こると分かっている事件を前に、日常が紡がれていく様子を読者は追う。淡々と過ぎる日々の中で少しずつ訪れる変化に不穏の影がちらつきぐっと引き込まれる。こんなに登場人物の中まで入っていく感覚は久しぶりだ。読み終わったら読み終わったで登場人物達のその後に想いを馳せている。とても心地が良い感覚だ。

平易な感想を述べるならば、とにかく文字通り全ての人に読んで欲しい。普通という言葉に安住している人も、重圧に感じている人も、きっと刺さる場面があると思う。そして明日からの世の見方に躊躇して欲しい。

週末、映画版を見る予定だ。好きな俳優さんが多く出演しているので楽しみ。

手に取るきっかけになった作者コメント。
中盤までどうやってそういう帰結に持っていくか全く見えなくてそれも好奇心を煽った。

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