『紅葉』

木々が色づき始める寸前の森の中を男は走っていた。
男はなにかに追われて走っていたような気もするし、何か目標があって走っていたような気もするが、男はただ走り続けていた。
男が走り去った後の森は秋に追いつき、様々な色を見せていた。
ただ男の前に広がる森が見せるのは、単調な緑に覆われた暗闇に過ぎず、男は不安を感じたが、到底彼の後ろに広がる紅葉に目を配ることもできず、一生懸命に暗闇に向かって走ることしかできなかった。

いつから男は走り続けていたのだろうか。生まれてこの方、ずっと走り続けていたような気がする。男はいつものように、自分がどうして走っているのかについて考え始めた。私はなにか罪を背負っているのだろうか、いや誕生以来走り続けているのだとしたら、罪を背負うような機会もない、それとも私は生まれながら原罪を背負っているのだろうか。自由意志によって走っているのであろうか、いや、そんな気はしない。

私に走る意味、それすなはち生きる意味とはあるのだろうか。私の後にきれいな色を見せる葉は芽吹くのに、私はもはや頭上の一枚の緑葉としての存在を許されなかった。

どうして私は走っているのだろうか。今日も私は堂々巡りを繰り返しながら走り続けた。

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