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003.馬車道大津ビル(旧東京海上火災保険ビル)

≪3.生糸貿易をささえた横浜の洋館・建造物003/馬車道通り≫
 *装飾タイルのシンプルな外装で、最上階の部分に幾何学模様のタイルでアール・デコ調のデザインが施されています。交差点に面したビルの角がとられているのが特徴です。
 
神奈川歴史博物館前の交差点の対角にある鉄筋コンクリート4階建て、地下1階のビルで、昭和11(1936)年の竣工です。もとは東京海上火災保険として建てられたもので、戦後、大和興行や㈱ケイヒン、協同飼料研究所などに利用され、平成9(1997)年に内部設備の改装が行われてテナントビルとして馬車道大津ビルと名称を変えて現在に至っています。
 エントランスは、馬車道に向けた西面側に設けられています。設計者の木下益治郎は、これだけでなく、東京・丸の内の東京海上ビル旧館など、東京海上火災保険関連の建物の設計の仕事をいくつか手掛けている方のようです。

正面のドアも黒を基調にシンプルでシックだ。

 しばらく外壁のタイルが崩壊するのを手入れして防いでいたようで、ネットでおおわれていましたが、工事も終わって素の姿が見られるようになりました。内部もよく手入れされていて、オフィスビルとしては継続して活用されており、地下はイベント用のスペースになっていて、ギャラリーやコンサートに貸しだされています。
 馬車道通りを歩いていると意識しませんが、このビルは、交差点のコーナーに面した角がそぎ取られていて、歩行者がコーナーを歩きやすくなっているのです。
 一見、地味に見えるので、それと気づかずに通り過ぎる人が多いのですが、なんのなんの、よく見ると実に味わい深く、こぢんまりとした珠玉の味わいのビルといえます。横浜市の歴史的建造物に認定されています。

内装にもタイルが使われていて、黒とのコントラストが
落ち着いて厳かな雰囲気を出しています。

 ■昭和初期のビルとして保存状態は良好
 外壁は装飾タイルで統一されていて、余計な飾りがないシンプルな外観。きりッとした直線のアール・デコ調のデザイン。下からはあまり見えない4階の部分に手がかけられていて、タイルで幾何学模様が付けられている、ちょっとしゃれたビルで昭和初期の特徴をよく伝えています。
 交差点をはさんで、向かいの神奈川歴史博物館の正面の写真を撮影するにはこの前が絶好のポイントなので、多くの人が、このビルの前(ちょうど交差点にむけてそぎ取られた角)で、このビルを背に写真を撮影している姿を見ます。ちょっと後ろを向いてこのビルも見てください、と声をかけたくなるのを我慢しています。
 このビルは産業遺構としてとても重要、と言われているのですが、その理由の一つがビルの浄化槽です。オフィスビルにはそれなりに使用者の生活面が必要で、厨房、トイレなどのための浄化槽は欠かせません。多くのビルは建物そのものよりも早くパイプや浄化槽などのユーティリティが痛んでしまい改修が必要になります。
 そんな中で、このビルの浄化槽を含んだ浄化の仕組みは、大正末から昭和はじめにかけての過渡期のものであり、当時としては非常によくできた浄化槽のシステムを備えていると評価されていて、貴重な産業資産を備えたビルとされているのです。地味で目立たないが、それなりの存在感を持った建物なのです。 

横浜市の歴史的建造物を表示するパネル。周囲の重厚な黒のなかで、良く映える。

●所在地:横浜市中区本町6丁目50-1

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