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008.日本郵船歴史博物館

⇒現在改装で2024(令和6)年10月まで休館中
≪3.生糸貿易をささえた横浜の洋館・建造物008/本町通り周辺≫

*船舶が国際物流の主役だった時代の面影を残す日本郵船歴史博物館(元日本郵船本社)。

 
 ■大迫力--16本の列柱
 正確に言えば、本町通りではなく一本海側にある海岸通りにあります。JR関内駅から関内大通りを海の方向を目指して歩くと、本町通りに出るあたりから、正面に重量感のあるコリント式の大オーダー(列柱)が見えてきます。
 馬車道を関内駅方面からぶらぶら歩いてくるならば、神奈川歴史博物館を左手に、馬車道大津ビル、旧富士銀行横浜支店を右に見て、本町1丁目の交差点を渡り、そのまままっすぐ旧生糸検査所(横浜第2合同庁舎)の前を直進。二つ目の海岸通りを右に曲がれば、左に日本郵船の歴史博物館があります。桜木町駅からでも歩いて5分ほど。みなとみらい線の馬車道駅で下車するなら、歩いて1,2分の距離です。
 海岸通りという一本裏通りにあるために、見過ごされがちな建物なのですが、この前をそのまま進めば、自然の流れで、クイーンの塔で知られる横浜税関や、旧産業組合館、昭和ビルなどにアプローチできる、なかなか便利は所になるのです。
  古典様式のオーダー(列柱)を使っている建築物は横浜市内にもたくさんありますが、長さ50メートルほどにわたって、16本もの円柱が構えているのは、ほかにありません。見た瞬間、「ほうっ」、と思わず声が出てしまうほど圧巻です。さすが郵船本社、その黄金時代をほうふつさせる納得の構えです。
 前に面した海岸通りがギリギリ片側2車線という幅しかないので、正面から撮影したいところですが、少しくらいの広さの口径レンズでは1枚の写真にはなかなか納められないというカメラマン泣かせの建物でもあります。超広角レンズをお持ちの方はぜひ、正面からの撮影にチャレンジしてみてください。ということで斜めからの写真しかないのですが、そのくらいの迫力を持った規模なのです。正面から撮った写真は見たことがありません。スリット・カメラでつなぐしかないかしら?
 
 ■世界を代表する郵船会社の本社
 この海岸通りをそのまままっすぐ進めば、横浜税関、神奈川県庁舎を経由して、象の鼻、赤レンガ倉庫、横浜開港資料館、大さん橋・・・を経て、山下公園やホテル ニューグランドへとつながる生糸貿易の歴史の道でもあります。
 建てられたのは、海運が時代の寵児として華やかだった昭和11(1936)年で、鉄筋コンクリート造り3階建て。当時の状況から言えば、日本だけでなく、世界を代表する郵船会社の本社にふさわしい構えとして作られました。
 設計は和田順顕。石川県出身で、東京美大を卒業したあと横浜鶴屋(後に松屋→松坂屋に合併)の設計に携わったのをかわきりに、慶應義塾大学医学部特別薬化学教室(信濃町メディアセンター)や神奈川県庁舎の屋上など多くの横浜の建築設計に関わった人で、ユニークなところでは、神奈川県内外で、多くの実業家の邸宅を設計していることがあげられます。また、日本にプレハブを導入する際に、日本向けに設計を変更したことでも知られています。
 さてこの建物、長い間、日本郵船の横浜支店として使われてきましたが、2003年6月に一部を改装し、日本郵船歴史博物館としてリニューアルオープンしました。現在も事務所としても併用されています。
 
 ■戦前の古典主義洋式建築の大作

柱頭のアカンサスの飾りとその上の渦巻きの装飾が重壮な中にも、繊細さを感じさせます。

正面オーダーの円柱の柱頭はアカンサスの葉があしらわれ、重厚で直線的なデザインの中に柔らかなイメージを持たせています。正面に入り口が中央(3つ扉)と左右に1つ扉の計3か所。下の円柱のオーダーが3階の細い角形の柱に繋がっており、何とも、どっしりと構えた重壮な意匠で、16本の柱が支えているように見える上層部とのバランスも素晴らしい。
 リニューアル改装されたとはいえ、入り口ドアや大理石がまぶしい石造りの階段部屋、床のタイルなど、当初の構造、デザインはそのまま生かされており、海運が華やかだった時代をほうふつとさせます。戦前の古典主義洋式建築の大作で、一度は見ておきたいビルです。

大理石で重量感のある手すりなど、内部も建設当時の構造をよく残しています。

 なお、開設されている日本郵船歴史博物館は、三菱彌太郎「九十九商会」の流れを汲む日本郵船の歴史博物館として、船の構造・装飾などとともに日本の海運の歴史も展示したものであり、いわば日本の海外取引を支えてきた会社として日本の近代化の一方の歴史を知るには格好の施設といえます。

ビルの横面も特に装飾はないが、四角の柱が上下を通されていて、
正面の意匠が踏襲されているのがうれしい。

 山下公園に係留されている氷川丸は、この日本郵船の保有船であり、その歴史についても学ぶことができます(氷川丸との共通券が割安で販売されています)。なお、2024(令和6)年10月までは改装のため休館中です。
●所在地:横浜市中区海岸通3-9

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