見出し画像

7-4. 消費者がピッチャーであれば、小売業はキャッチャーである。

ダイエー会長 中内 

 小売店が投手で自分で球種・コースを決めて投げ、それを捕手として消費者が受け取る……普通はそういうイメージだが、中内に言わせると、逆だ。

「われわれは消費者の代理であって、そこにわれわれの意志はない。われわれはお客さんの言うとおりにしているだけです。野球にたとえて言えば、消費者がピッチャーで、われわれはキャッチャーです」

 小売業が勝手に情報を発信する、つまりピッチャーになるのは僭越であり、小売業は常に受け手、キャッチャーとしての立場に身を置き、ピッチャーである消費者のニーズを受け止め、それに応えてゆかなければならない、と中内は言うのである。

最近の野球は、むしろ逆。捕手が投げる球を指示し、それに従って投手が投げる。ダイエーがホークス球団を持っていて、中内がオーナーを続けていれば、今ならば消費者がキャッチャーで、小売業はその指示に従って投げる投手であるというかもしれない。

「ニーズやウォンツがあり、それが昨日-今日-明日と毎日のように変化する。そういう意味では、小売業は変化に対する対応業であって、お客様が変わればわれわれも変わるということです」。

 これと逆の立場をとってきたのが、セゾングループを率いてきた堤 清二だが、この堤の「情報発信基地」の考え方に対して、中内は真っ向から反対する。小売業者が消費者に対して文化やライフスタイルを提案してゆくのは僭越だ、と言うのである。

 消費が拡大する成長経済の中では、消費者は小売業が投げるさまざまな変化球を十割バッターのごとき打撃力で左右に打ちこなすことができた。しかし、いったんバブルが崩壊し、消費が縮小すると、小売業が手を変え品を変えどんなに打ち気を誘う球を投げてもダメ。ド真ん中の直球以外にバットの芯に当てることはできないのである。

「消費者がピッチャーで小売業はキャッチャーである」は、一見、消極的に聞こえる。
まして、メーカー相手にさえ一歩も譲らない攻撃的な中内には珍しい言葉のように聞こえるが、よく考えると、消費者のニーズをしっかりとらえることこそ小売業という業種の真理だということをみごとに示した言葉であることがわかる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?