見出し画像

古寺が長持ちする秘密--玉鋼(タマハガネ)とヒノキの包容力

                    薬師寺に展示されている古代釘
建材として正しく使えばヒノキは1000年、鉄は100年、コンクリートは80年と言われています。
特にヒノキについては、樹齢千年のヒノキは正しく使えば千年は持つといわれ、実際に700年代に建てられた法隆寺、薬師寺、唐招提寺などは老朽化しているとはいえ、根幹の部分は1300年を経てもなお、ゆるぎなく中核を支えています。修理は、傷んだ箇所の部分修理で済んでいます。
 
建材としては老朽化するだけの鉄や石材と違って、木材のヒノキは、生き続けるところに特徴があります。たとえば薬師寺の解体修理で、上に載っていた屋根の瓦を外したら、下にあったヒノキの板が少しずつ反発して反り返ってきたといいます。1300年を経た木材が、重しを外されたら、少しずつ復元したというのです。修理にあたって、使われていたヒノキを4、5ミリ削ったら、香りがしてきたという話はよく知られています。千年を超えて生き続ける--それが天然素材ヒノキなのです。
 
法隆寺にも薬師寺にも、創建当時から釘が使われています。木組みの基本は組みですが、必要な個所に和釘が使われています。鉄は寿命100年と言われながら、薬師寺や法隆寺に使われている釘は、1300年を経てもなお、錆びずにいますが、その秘訣は、ヒノキと和釘の両方にあるそうです。
1000年を持たせる建築物には樹齢1000年の木材を使うのが鉄則だとか。法隆寺、薬師寺に使われているヒノキは樹齢1000年にも及ぶ大木で、しかも木目がしっかりと詰まっている部分を使います。
ヒノキの材料は使う前に十分乾燥させて、水分と脂分を取り除きますが、それでも脂分は豊富に含まれているために残ります。その木目の詰まったヒノキの脂分が釘に密着し、釘を酸化から守っているそうなのです。このヒノキの大きな包容力、すごいですね。

同時に、和釘です。古代に使われた和釘は当時の精錬法、たたら製鉄でつくられた素材で、刀剣を作る玉鋼でつくられます。厳選された不純物の少ない砂鉄を高熱で溶かし、作られた鉧(けら)と呼ばれる炭素の含有量の少ない鉄からさらに炭素など不純物をたたいてはじき出したものが玉鋼です。名刀はさびないと言われますが、同じ素材の玉鋼から作った和釘も炭素の含有量は0.1パーセントとか。不純物が少なく酸化しにくいうえに、きめの細かいヒノキの脂分に触れることで腐食することを拒んでいるそうです。
炭素の含有量がゼロではなく0.1パーセントが最適と言いますが、その分量を古代に人たちは測定具もなくどうやって確認したのでしょうか?
人の感覚は人知を超えます。

一般に遺跡などから発掘された鉄材は錆が出てぼろぼろになって発見されることが多いのですが、一方、薬師寺に展示されている改修の際に取り出された釘はしっかり形を保って、錆が出ていません。

ヒノキは建物を長く持たせているだけでなく、釘さえも酸化から守って長生きさせているのです。ヒノキと釘という寿命の異なる素材を混在させながら、寿命を長い素材に合わせて保たせているのです。こんな知恵と工夫、1300年前の、寿命わずか40-50年の工人たちは、どうやって獲得したのでしょうか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?