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064 アイデア・美しさを活かす匠の技能

もともと和時計職人と言われていた竹田近江が、からくり一座の興行を行ったのは、1600年代の中頃からです。ほぼ木と糸だけを使ってこんな工夫をやってのけてしまうすごさは、見事というほかありません。
観客のつくられたものに示す強い関心と称賛の声、からくりを生み出す作り手の技術と工夫、どちらが先でどちらが後か、鶏と卵の論争ではありませんが、お互いが相互に刺激し合って、からくり技術のスパイラルを高めてきたのでしょう。
こうしたからくりを完成させる裏には、素材や機構・動きに対する深い追求と考察があります。八代目からくり師の玉屋庄兵衛さんの名古屋市のアトリエに伺った折に、おびただしい数のノミや彫刻刀を拝見し、その数の多さに驚いたことを覚えています。
「からくりに使う素材は、場所や用途によってカシやヒノキなどさまざま。同じような歯車でも、求める動きでその形が微妙に違います。当然削るカンナもノミも違う。その日の刃の砥ぎ方で、出来上がった歯車や支点の動きが違う」……そんな話を伺った記憶があります。
若いころは能面作りを志していたという八代目玉屋庄兵衛さんが削る人形のやさしい顔が印象的でした。からくり機構だけでなく、人形の顔にも神経を注ぐ、工芸と呼ばれる日本的なものづくりの奥行のひとつです。
 
図6-8 八代目玉屋庄兵衛さんのかしら

 


からくりに合わせた最適な素材を選び、素材に合わせた最適な道具を用意して加工を極限まで追求した結果、可能になる動きがあります。他の工芸品でもこの点は同様です。
海外の美術館に行くと、意外なところで日本の美術・工芸品と同時に、和製の道具に出会うことがあります。その多くは、江戸時代の南蛮貿易で売買されたり、明治時代初めに日本にやってきた人たちが収集して持ち帰ったものですが、完成品の工芸品としての質の高さが群を抜いているだけでなく、さまざまな道具に見られる工夫とていねいな砥ぎや修復などの手入れのていねいさに驚かされます。
この道具の工夫と手入れがあって初めて高度な完成品があることがよく分かります。その結果作られる緻密さは、現地の細工物を見て実感していることもあって、感動的ですらあります。
 それは、美意識やアイデア・発想といった芸術的な創造力だけでなく、目を見張るような細工、洗練された色づかいと美しさ、そして何よりも、最後まで手を抜かずに仕上げられたていねいさに感動します。芸術品、アートというよりも、技巧を極めた工芸品という呼び方がふさわしいことを実感します。

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