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081. ノーベル賞受賞者数と国民の独創性

新規製造物禁止令の影響がいまだに残っているのかどうかはともかく、日本人も「日本人には独創性/創造性がない」というイメージを持っている人も少なくありません。そう語る姿は、多少自虐的でもあります。
はたして日本人に創造性があるのかないのか、現代のひとつのメルクマールとして考えられるのは、ノーベル賞の受賞者数です。この数字が、そのまま研究開発力・独創性・創造性の証明になるとは思いませんが、ひとつの参考にはなるでしょう。
日本人が初めてノーベル賞を受賞したのは1949年の湯川秀樹「中間子の理論」です。
原子核の中で、陽子と電子を結合させる媒介として中間子があると理論的に予想したもので、この研究そのものは、28歳(1935年)の時に発表したものですが、後の研究でそれが証明されて、1949年、42歳でノーベル賞を受賞しました。その後、長い間受賞者がなく、ものづくりの面では海外の特許や技術を購入して高品質の製品を作るようになったことから、内外で日本は模倣大国とさかんに陰口をきかれました。逆に、それだけ先進国の中で見てもものづくりの技が抜きんでていたということでもあるのですが。
2人目の受賞者は16年後の1965年の朝永振一郎で、3人目がさらに8年後の73年の江崎玲於奈です。以降、2000年までは、81年福井健一、87年利根川進と、計5人にすぎませんでしたが、2023年現在は、米国籍で米国在住の南部陽一郎・中村裕二の2人を除いても自然科学系で22名と、欧米諸国以外の国では最多の受賞者を出しています。
世界で受賞者数を国別に見れば、物理、化学、医学生理学賞の自然科学系ではアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの四か国が多く、ついで、スウェーデン、スイス、ロシア、オランダ、となっています。日本人はと言えば、22人、米英独仏について第5位です。
戦前までは、受賞者が欧米諸国に集中していたため、合計で見るとこれらの国から多くの受賞者が出ています。そういう事情を念頭においてみれば、日本の授賞者数は、遅れてきた青年としては、かなり健闘していると言っていいのではないでしょうか。
前掲の北海道大学の杉山は、科学・技術の先進国は、歴史の変遷とともにたえず移動していたと書いています。ここしばらくはアメリカの時代が続いていますが、2000年以降に限って、自然科学系3賞(化学/物理学/医学生理学)のノーベル賞受賞者数をみれば、日本人の受賞者は(アメリカ国籍を除いてカウントしています)、
・2000年:白川英樹、
・2001年:野依良治、
・2002年:田中耕一・小柴昌俊、
・2008年:小林誠・益川敏英・下村脩、
・2010年:鈴木章、根岸英一、
・2012年:山中伸弥、
・2014年:赤崎勇・天野浩、
・2015年:梶田隆章・大村智、
・2016年:大隅良典、
・2018年:本庄庶、
・2019年:吉野彰、
の計17人が受賞しています。
これは、米国の54名に次ぐ人数で、次いでイギリスの20名、日本の後は、10名に満たないフランスとドイツが続いています。2000年以降を見れば、日本はドイツ、フランスをしのいで、ノーベル賞の授賞者数は日本が世界第2、3位の位置にいるのです。
なお、基本的な姿勢として、ノーベル財団は、どの国の研究者に授与するか国籍を問うていませんし、また、世界には二重国籍を認めている国も多くあり、受賞者の中にもいます。なので、ここであえてことさらに「日本人受賞者数」をあげることがナンセンスであることは言うまでもありません。
とはいっても、あらためてこうした数字を見てみると、日本人もなかなかのものではありませんか。そして、毎年のように、受賞候補者として多くの日本人科学者の名前があげられていますので、今後も、日本人受賞者は生まれることが期待できます。
21世紀に入って23年目になりますが、ノーベル賞受賞者数世界第2,3位の国に対して、「独創力/創造力はない」とは言う人はいないでしょう。日本人は世界の中でも有数の研究開発力・創造力・独創力を持った国である、と認識を新たにすべきではないでしょうか。
日本人に創造力がなかったわけではありません。独創力がないと言われていたのは、単に基礎的な研究を習得するのに時間が必要だったということです。先進的な研究を生み出すまでの雌伏の時間をへて、やっと成果を生むようになってきたのです。
日本の政府の現今の科学技術行政や教育では今後の科学技術・研究開発力が不安だ、という声も聞こえます。こうした意見も含めて、今後の科学技術政策のあり方を真剣に考える必要があると思います。
アジア地区をみると、世界第2位のGDPとなった中国は平和賞・文学賞で受賞者は生まれていますが、自然科学系では、2015年に抗マラリア薬の発見で生理学・医学賞をした中国人科学者 屠呦呦に、1957年に素粒子物理学で物理学賞を受賞した楊振寧、李政道(いずれも台湾)の3人くらいです。
国際技能五輪では常勝国となった韓国も、平和賞が1人いるだけで自然科学分野では受賞者はゼロです。だからと言って、中国、韓国をはじめとするアジア諸国の人々に創造性、独創性がないかといえば、それは違います。10年、20年後の中国・韓国をはじめとした国々がどのようになっているか、全否定できる人は少ないでしょう。
いま、先端研究をめざして世界からアメリカに人材が集まっていますが、何十年か後には、世界中の科学者が中国語を学び、中国留学をめざすようになっている、そんな時代が来ないと言えるでしょうか。

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