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024.エキスプレスビル

≪3.生糸貿易をささえた横浜の洋館・建造物019/みなと地区≫
*夏になるとうっそうと茂る街路樹の陰に隠れて表からよく見えないのが残念ですが、ユニークなカラーリングが楽しい。ひっそり隠れた印象的なビルです。
 
 
 ■ハードボイルドが似合いそうなレトロモダン
 海岸通りの大さん橋入り口交差点から大さん橋に入ってすぐ左、大さん橋に入ろうとする人間を、いかにも閻魔様が門番としてチェックするために立っているようなビルがエキスプレスビルです。ミナトを舞台にしたハードボイルドな、売れない探偵の事務所がありそうな、ちょっとレトロでおしゃれなビルです。
 もともとは株式会社ジャパン・エキスプレスの本社ビルとして昭和5(1930)年に建てられたもので、鉄筋コンクリート造り地上3階、地下1階。
設計は、昭和初めにモダニズムの旗手として、若尾ビル(010)、インペリアルビル(035)、後に紹介する昭和ビル(020)など、横浜地区で多くのモダニズムの流れをくむ建物をデザインしてきた川崎鉄三の作品です。 
 外壁は赤みがかったベージュのタイルに、レンガ色の大きく窓を囲んだ太いライン。縦長の規則的な窓の周りを埋める白いタイル、何とも独特なカラーリングのコントラストが印象的な建物です。
 モダニズムというと、無駄な装飾を省き、形がユニークというイメージが強いのですが、このビルの独特のカラーは、建築以来の色のようで、しゃれていてユニーク、一度見たら忘れられません。古さというよりも、レトロ感を感じさせるという方が正しいかもしれません。もしかしたら、建設当初からレトロ感を感じさせる効果をねらってデザイン、カラーリングされたのではないかと言ったら、言い過ぎでしょうか? ハードボイルドの探偵を思いついたのも、このデザインのためですね。
 また、正面玄関から2階、3階へとつながる階段室の明り取りと、その両脇にある四角い柱が、古代建築のオーダー(列柱)のように見えて、モダンななかにも、古典建築のニュアンスを持たせた、まさにモダニズムの極致、川崎鉄三のセンスを感じさせる仕事といっていいでしょう。素人の所見です、ご覧になら形はどのように見るか、違いを感じながら見ていただくというのも楽しみ方の一つかもしれません。

外装もそうだが、ビルの中も昔のまま、床や階段もレトロで手が込んでいる。

 ■所有者が変わってもビル名はエキスプレスビル
 大さん橋の入り口にあって、建てられた当時は、新しいデザイン、カラーづかいの建物として、見る人に、外国につながるイメージを喚起したい、設計するにあたって、そんな思いもあったかもしれません。
 このビルは、所有者は代わりましたが、いまでもエキスプレスビルの名は変わらずに継続しています。1階は店舗、2階以上はオフィス用ビルとして使用されており、大さん橋入り口という立地もあって、聞いてみると、入居希望をしても、なかなか順番が来ないほどの人気だそうです。こんなビルに事務所を持ってみたいと思う人が多いということですね。皆さんはいかがでしょうか?

側面のデザインも、基本的に表を踏襲して、カラーもそのまま。

 建物の前に立つ街路樹が夏になると青々と葉を広げて、建物を隠してしまうのはとても残念。前を通る人がこのビルの存在に気づかずに通り過ぎてしまうのがもったいない気がします。街路樹を全部取り払って、通る人にしっかり見せたいところなのですが、それはないものねだりの無理な相談かもしれません。
 ジャパン・エキスプレス㈱社は、平成28年(2016年)に、事業を㈱宇徳と、商船三井ロジスティクス㈱に譲渡してしまったので、現在の持ち主はジャパン・エキスプレス社ではなく、横浜を本拠とする㈱宇徳さんです。
 ㈱宇徳は、横浜人以外にはなじみがない名前かもしれませんが、港湾運送・物流・プラント事業を営む大手で東証一部上場企業です。
 所有者が変わっても、エキスプレスビルと名前を変えないのはうれしいですね。㈱宇徳さんに感謝です。
●所在地:横浜市中区海岸通り1−1

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