家庭料理たちの小さな絶滅

買い物に出かけたショッピングモールの一角で生まれ故郷エリアの物産展をやっていたので、地元の特産物を買って帰って食べた。子供の頃から親しんでいた味もあれば、ある程度長じてから美味しさが分かったものもある。住んでいた県の特産物と言われるものでも、自分が住んでいた地域ではあまり見かけなかった、というか自宅の食卓には上らなかったものも少なくない。

郷土料理は、プロの料理人によって提供される洗練されたものは商売として残っていくのだろうけれども、各家庭ならではのバージョンの郷土料理(それを「その地域の家庭料理」と言って良いと思うのだけれど)は親から子へと伝えられなければそこで途絶えてしまう。

たとえば「煮染め」と一言で言っても、地方によってきっと差があるだろうし、家によってそれぞれのこだわりみたいなものもあるだろう。だから、母が作る煮染めを私が引き継がなければ「我が家の煮染め」は母の代で途切れてしまう。もっともその前に、そもそも母が作る煮染めが「我が家で代々引き継がれてきた煮染め」かどうかは分からないけれども。

今では色んな「料理研究家」の方々が、忙しい現代人のために便利なレシピをたくさん作ってくれていて、それはとても重宝するものだけれども、それらが採用されることによって引き継がれることなく途絶えた各家庭の「我が家の料理」というのはどれぐらいあるのだろう。あるいはそれとも、私たちの親世代が作ってくれていた料理は既にそのような断絶の後の料理なのだろうか。

とかいったことを、地元の特産物を食べながら思ったりしたのだった。

そんなことを考えて、ではたとえば「母が作る煮染めを私が引き継がねば」という気持ちになったかと言えば、正直なところ、あんまりそうでもない。煮染めだけに関して言えば、祖父母と同居していたこともあって子供の頃に幾度となく食べる機会があり、もう十分食べたから良いかな、という風に思ってしまう。もっと美味しい料理が世の中にはたくさんあり、それらに出会ってすっかり慣れ親しんでしまったので、今さら「素朴な煮染め」にはなかなか戻る気が起きない、ということなのだろうなあ。


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