見出し画像

ある2変数関数の極値問題

$${xy}$$平面において、3本の直線

$$
\ell_i \colon f_i(x,y)=a_ix+b_iy+c_i=0 \quad  (i=1,2,3)
$$

を考える。どの2本も平行ではなく、また3本が一点で交わることもないと仮定する。$${\ell_2}$$ と $${\ell_3}$$ の交点を $${P_1(x_1,y_1)}$$、$${\ell_3}$$ と $${\ell_1}$$ の交点を $${P_2(x_2,y_2)}$$、$${\ell_1}$$ と $${\ell_2}$$ の交点を $${P_3(x_3,y_3)}$$ とおくと、上の仮定からこれら3点は三角形をなすような相異なる点である。この三角形 $${P_1P_2P_3}$$ の重心を $${P_0(x_0,y_0)}$$ とする。

$$
x_0=\frac{x_1+x_2+x_3}3, \quad y_0= \frac{y_1+y_2+y_3}3
$$

である。状況を図示すると以下のような感じである。

このとき、3次関数

$$
f(x,y)=f_1(x,y)f_2(x,y)f_3(x,y)
$$

の極値について調べる。まず、極値を取る点の候補となる停留点(つまり $${f_x(x,y)=f_y(x,y)=0}$$ となる点)を求めよう。

$$
\begin{align*}
f_x(x,y) &= a_1f_2(x,y)f_3(x,y)+a_2f_1(x,y)f_3(x,y)+a_3f_1(x,y)f_2(x,y), \\[1em]
f_y(x,y) &= b_1f_2(x,y)f_3(x,y)+b_2f_1(x,y)f_3(x,y)+b_3f_1(x,y)f_2(x,y)
\end{align*}
$$

である。$${f_x(x,y)}$$ と $${f_y(x,y)}$$ は共に2次関数なので、連立方程式 $${f_x(x,y)=f_y(x,y)=0}$$ の解は高々4組、つまり停留点は高々4個のはずであるが、実は $${P_0, P_1, P_2, P_3}$$ の4点が停留点であることが、以下に述べるように連立方程式を具体的に解くことなく分かる(これがこの記事で一番書きたい部分)。

まず、3点 $${P_1, P_2, P_3}$$ がいずれも $${f(x,y)}$$ の停留点になることがわかる。たとえば $${P_1(x_1,y_1)}$$ は$${\ell_2}$$ と $${\ell_3}$$ の交点であったから

$$
f_2(x_1,y_1)=f_3(x_1,y_1)=0
$$

が成り立っていることから、$${f_x(x_1,y_1)=f_y(x_1,y_1)=0}$$ が分かる。なお、$${f(x_1,y_1)=0}$$ であり、$${P_1}$$ の任意の近傍で $${f(x,y)}$$ は正の値も負の値も取り得るので、$${P_1}$$ は $${f(x,y)}$$ の鞍点である。同様の理由で $${P_2}$$ と $${P_3}$$ も $${f(x,y)}$$ の鞍点である。

さらに $${P_0}$$ も $${f(x,y)}$$ の停留点であることがわかる。このことを確かめよう。$${P_0}$$ は直線 $${\ell_1, \ell_2, \ell_3}$$ の上にないので $${f(x_0,y_0)\ne0}$$ であることに注意すれば、

$$
\begin{align*}
\frac{f_x(x_0,y_0)}{f(x_0,y_0)}
&=
\frac{a_1}{f_1(x_0,y_0)} + \frac{a_2}{f_2(x_0,y_0)} + \frac{a_3}{f_3(x_0,y_0)} = 0, \\[1em]
\frac{f_y(x_0,y_0)}{f(x_0,y_0)}
&=
\frac{b_1}{f_1(x_0,y_0)} + \frac{b_2}{f_2(x_0,y_0)} + \frac{b_3}{f_3(x_0,y_0)} = 0
\end{align*}
$$

を確かめればよい。これは、恒等式

$$
\frac{f_1(x,y)}{\lambda_1} + \frac{f_2(x,y)}{\lambda_2} + \frac{f_3(x,y)}{\lambda_3} = 1
$$

から従う(左辺の $${x}$$ と $${y}$$ の係数が共に $${0}$$ でなくてはならないことから上の2式が得られる)。ただし

$$
\lambda_i \coloneqq f_i(x_i,y_i)\Bigl(=3f_i(x_0,y_0)\Bigr)
$$

とおいた。この恒等式の証明は簡単で、$${(x,y)=(x_1,y_1),(x_2,y_2),(x_3,y_3)}$$ のときに両辺が一致すること(これは簡単)、左辺が $${x}$$ と $${y}$$ の1次式であること、$${P_1, P_2, P_3}$$ が一直線上にないこと、から分かる。

$${f(x,y)}$$ は $${P_0}$$ で極値を取る。もし $${f(x_0,y_0)>0}$$ ならば、三角形 $${P_1P_2P_3}$$ の内部で $${f(x,y)>0}$$ であり、三角形の辺上で $${f(x,y)=0}$$ である。よって $${f(x,y)}$$ は三角形の内部で極大値を取るはずであり(有界閉領域上の連続関数は最大値と最小値を持つという事実を使った)、その点は停留点のはずだから、$${P_0}$$ に一致するはずである。同様にして、$${f(x_0,y_0)<0}$$ ならば $${P_0}$$ で極小値を取る。

具体例として、たとえば

$$
f(x,y)=xy(1-x-y)
$$

とすると、この場合は $${(0,0), (1,0), (0,1), (\frac13,\frac13)}$$ の4点が停留点で、それらのうちはじめの3つが鞍点であり、最後の $${(\frac13,\frac13)}$$ において極大値 $${\frac1{27}}$$ を取ることが分かる。

一般に $${n}$$ 本の直線(ただし $${n\ge3}$$)

$$
\ell_i \colon f_i(x,y)=a_ix+b_iy+c_i=0 \quad  (i=1,2,\dots,n)
$$

が与えられて、どの2本も平行ではなく、またどの3本も一点で交わることがないと仮定すると、同様の考察によって、$${n}$$次関数

$$
f(x,y)=f_1(x,y)f_2(x,y)\dotsb f_n(x,y)
$$

は、2直線の交点たちを鞍点とし、直線達で囲まれる各有界領域内で1つずつ極値を取る、ということになるはずであるが、この場合には極値を取る点の場所はもはや(鞍点がなす三角形の重心みたいな感じで)簡単には定められない(と思うんだけど、どうかな?)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?