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【小説】トンとドン【後編】


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わたしたち8人はシャンハイ・ニューヨークの奥の部屋に通された。

予約しておいてよかった。
他の席は、ビジネスマンとマダム会でうめつくされていた。

関西人が集まるとさすがにたのしい。

「うわー。毎回景色ちゃいますね。」
「ええ席やんか」
「昼はもっとみえるんやけどな。もう見えへんわ。」
「あれ?もう完成したんでしたっけ?」
「ウメキタは竹中さんっしょ?専門やないですか。」
「よーわからへん。わしの専門は万博やっちゅーに。」
「北梅田駅えぐいっすよ。しってます?」
「あんなもん、ようつかわん。」
「いやいや、あの改札すごないですか?」
「ままま。今日は、お集まりいただいてありがとうございます。」
「今日は、名刺交換なしやないか。めずらしな。」
「いや~。このあと来る方は はじめましてやと思いますね」
「おぉ、アイツか。こりゃ、粗相そそう確定やな」
「ドンちゃんは逸材ですからねぇ~」

「はい~!いつもおせわになっております~!」と にこにこする。
ドンさん。ドンさんの上の名前はわからない。

ドンさんは、いつも黒いジャケット。中には真っ赤なシャツ。そして、高いヒールを鳴らすのが得意。靴は決まってルブタン。秘められた赤

真っ赤な店内。冷や汗しながら、ページをめくる。これだけ、赤いと思わず辛いものが食べたくなる。しかし、ここはガマンだ。王道を狙う。

はて。いつも何を注文していたんだろう。
こまるんだよなぁ~。緊張する~。9人分の注文ってわかんない。
とりあえず、カニ小籠包とよだれ鶏とキクラゲサラダあたりを抑えて

他は….えっと……

タキシードの店員さん「先にお飲み物をお伺いします。」

生の人~?
ウーロン茶の人~?

飲み物同時になんとなく前菜らしきものを注文する。

ドンさんが来るまでアイスブレイク

にかまってられる暇もなくて、メインと炭水化物の絵を眺める。
ページをひたすらめくる。選ぶ
とりあえず、肉かなぁ?黒酢酢豚かなぁ。エビチリもいい。

だれにも気づかれずに悩む。だれかに相談したいけど、できない。これは、わたしに任されたミッションだと感じた。

葛藤しているあいだにガツっガッガッと音が聞こえた

異様な音だった

横をみると、そこには、ドンさんがいた。

やっぱり黒いスーツと赤いシャツ。

そして手には、GOLDLIONの赤いバック。これは初めて見た。

食事会の空気がバキっと変わる。
ドンさんは、一目置かれていた

ドンさんは、悪びれもなくガツっガッガッっと床を蹴りながら向かってきた。そのまま空いている下座にドカッっと腰をおろした。つまり私の隣。

ドン「今日 杏仁豆腐が食べれるとおもって 予定空けてきました~♪」

楽しそうだった。

分厚い辞書のようなメニューがうばわれた。
安心する。

ドン「今日も素敵ぃ!なんで肌ブリンブリンなの?!ハイフやってる?!若いね。君。えぇ?そんな、君に良いゲームプロデューサーの見分け方を教えてあげよう。キヒィ?料理の注文でわかるんだy…あ!すみません!お兄さん!生 ひとつ!」

は。はぁ。
ところで、いまって。シラフなんですか?

そのあとのドンさんのご活躍はすごかった。真逆の人間には憧れる。ほしい。いますぐほしい。その人間力。社会人9年目ってこういうことか。と食べるだけ食べた。咀嚼してる暇なんて無い。飲むように喰らい尽くす。脳内で、はげしくサンバを踊る。ドンさんと一緒に。なれない体の使い方で、足がもつれる。

1時間後、おいしくマンゴープリンをいただくことができた。

ドン「あーん。なんで杏仁豆腐売り切れなの?ど~いうこと?やばーい!」

最後まで やばーいドンさんを見せつけられて。わたしは体力をすいとられた。パワフルだった。はやくドンさんみたいになりたい。




2年後、
ドンさんが結婚した。名字が変わったらしい。
前の名前さえ知らなかったから。正直実感がわかない。
彼女の名前は、テンセン・ドンさん

その情報をきいて。
あぁ、もう会うことはない気がするなぁと感じた。



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