【小説】トンとドン【後編】
【関連】前回はこちらです。
わたしたち8人はシャンハイ・ニューヨークの奥の部屋に通された。
予約しておいてよかった。
他の席は、ビジネスマンとマダム会でうめつくされていた。
関西人が集まるとさすがにたのしい。
「はい~!いつもおせわになっております~!」と にこにこする。
ドンさん。ドンさんの上の名前はわからない。
ドンさんは、いつも黒いジャケット。中には真っ赤なシャツ。そして、高いヒールを鳴らすのが得意。靴は決まってルブタン。秘められた赤
真っ赤な店内。冷や汗しながら、ページをめくる。これだけ、赤いと思わず辛いものが食べたくなる。しかし、ここはガマンだ。王道を狙う。
はて。いつも何を注文していたんだろう。
こまるんだよなぁ~。緊張する~。9人分の注文ってわかんない。
とりあえず、カニ小籠包とよだれ鶏とキクラゲサラダあたりを抑えて
他は….えっと……
生の人~?
ウーロン茶の人~?
飲み物同時になんとなく前菜らしきものを注文する。
ドンさんが来るまでアイスブレイク
にかまってられる暇もなくて、メインと炭水化物の絵を眺める。
ページをひたすらめくる。選ぶ
とりあえず、肉かなぁ?黒酢酢豚かなぁ。エビチリもいい。
だれにも気づかれずに悩む。だれかに相談したいけど、できない。これは、わたしに任されたミッションだと感じた。
葛藤しているあいだにガツっガッガッと音が聞こえた
異様な音だった
横をみると、そこには、ドンさんがいた。
やっぱり黒いスーツと赤いシャツ。
そして手には、GOLDLIONの赤いバック。これは初めて見た。
食事会の空気がバキっと変わる。
ドンさんは、一目置かれていた
ドンさんは、悪びれもなくガツっガッガッっと床を蹴りながら向かってきた。そのまま空いている下座にドカッっと腰をおろした。つまり私の隣。
楽しそうだった。
分厚い辞書のようなメニューがうばわれた。
安心する。
は。はぁ。
ところで、いまって。シラフなんですか?
そのあとのドンさんのご活躍はすごかった。真逆の人間には憧れる。ほしい。いますぐほしい。その人間力。社会人9年目ってこういうことか。と食べるだけ食べた。咀嚼してる暇なんて無い。飲むように喰らい尽くす。脳内で、はげしくサンバを踊る。ドンさんと一緒に。なれない体の使い方で、足がもつれる。
1時間後、おいしくマンゴープリンをいただくことができた。
最後まで やばーいドンさんを見せつけられて。わたしは体力をすいとられた。パワフルだった。はやくドンさんみたいになりたい。
2年後、
ドンさんが結婚した。名字が変わったらしい。
前の名前さえ知らなかったから。正直実感がわかない。
彼女の名前は、テンセン・ドンさん
その情報をきいて。
あぁ、もう会うことはない気がするなぁと感じた。
【関連】次の話はこちらです。
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