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胡麻の花が咲いた

 今年も胡麻の花が咲いた。菜園の一角に咲く淡いピンク色の花は、私に色々な気づきをもたらしてくれる。

 食べ物の栄養に関心を持ち始めたのは、高校時代だったか。家庭科で使う食品成分表に興味を持ち、授業の副読本をよく開いては眺めていた。食品の産地や材料にも関心が広がり、食品のパッケージ裏の表示を見るのが好きだった。
 ある日私は気がつく。食卓に欠かせない胡麻、我が国で生産されたものに出合わない。外国産。日本では育てにくいの? 気候が合わないのかな? と勝手な解釈がどんどん広がっていった。その思い込みに疑問を持つ機会もないまま、私は社会人となった。

 胡麻についてより正しく知ったのは、職場では「中堅」と呼ばれるようになった頃。久しぶりに帰った実家でのことだった。食卓の胡麻をちょいとひとつまみ口に入れた。香ばしくてあまりにも美味しいので感想をもらした。と、待っていたかのように、両親が自分たちが作った胡麻であることを話した。え?作るって?ふつうに育てることができるの? 「できるよ」と自慢気な両親。
 私の頭の中は混乱した。
 胡麻は、日本で栽培可能である。
 夏の暑さに強く、育てやすい。

 持ち続けていた思い込みを修正することができた。さらに、胡麻は収穫後の作業が大変。手作業での乾燥や選別は手間がかかることも知った。
 でも、いつかチャレンジしたい。自分の育てた胡麻を食卓に添えたい。そう思うと、仕事の落ち込みも忘れて心に光が差してきた。
 
 その数年後、私は激務の職場から離れた。
 生活の基盤を菜園活動へ移すことを選んだ。
 念願の胡麻栽培にチャレンジすることができた。だから、胡麻の花は私にとって再出発の花だと思う。

 菜園の胡麻の花を見る。
 栽培4年目の今年は、収穫した胡麻を効率よく乾燥させたい。目標が浮かんできた。

収穫後の乾燥風景(2023年)

 胡麻の粒は小さい。乾燥させると鞘(さや)から粒が弾け飛ぶ。胡麻が弾けても大丈夫な場をつくりたい。試行錯誤の連続だが、より良い方法を見つけていきたい。
 この数年間を振り返ると、手間のかかる時間を私は楽しんでいる。自家製の胡麻を美味しくいただいている。私にもできた。こんな奇跡もあるんだなぁと改めて思う。
 あなたにもできますよ。そう思わせてくれた花。胡麻の花は、私にとって希望の花。

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