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そこの虫、部屋から出ず頭から出ず。

 困った。今日は何もする気になれない。そんな日があってもいいと思えられたのなら、それでいいのだが、決してそんな日はあってはいけない。何かしなくてはと思いつつ、暑いのか寒いのか分からず、毛布を抱いてベッドに横になっている。薄茶色の気味悪い天井に、口髭をはやしたおっさんが張り付いている。今日は何を食べようかと言って去っていった。足を天井に向けて伸ばし、その勢いで跳ね起きる。その勢いに紛れて、ベッドの足がガシガシと床を削り食らう。俺もおなかすいたな。冷蔵庫の横に御当地のマグネットがたくさん貼ってあっても、中には何もない。旅行だ、旅だ、放浪だなんて言っていたときとは違って今日は動く気になれない。何もかもこの真っ白な壁に埋もれてしまえばいいのに。腹が減って仕方がないので、壁を食った。誤って、隣人の部屋に通じてしまったが、隣人は馬鹿だから、笑ってこちらを見ているだけで、助かった。

 腹が満たされあと、眠気が吹き飛ぶほどの腹痛に見舞われた。よく噛まずに食べたもんだから、きっと消化不良を起こしたのだろう。それとも昨日おじさんと食べた野良犬が当たったか、呻きながら便所に駆け込んでいく。下宿のトイレは共用で、何人も何人もそこに吸い込まれていくさまは、まさに料理をかっこむ人間様のようだった。笑った。

 夜、欲にまかせて、ギイギイ鳴く。こればっかりはやめられない。向こうの空が明るくなってくる。休日が明けて大学が始まる。学問は筒に入っていくようで面白い。筒があれば入りたい。大学は大きな木の麓にあって、富士山の噴火から守るために大半の教室が地下にある。主な移動手段は、それこそ筒である。先週はどこかの筒で誰かの煙草の煙が感知されて、もはやウォータースライダーだった。誰かのサンダルや誰かのテスト用紙がながされて、カオスだった。水に適応できない種は休講になって、僕はさっさと帰った。そんなこともたまにある。


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