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原研哉「低空飛行」岩波書店

この「低空飛行」というのは「低空飛行 High Resolution Tour」という建築士のプロジェクトのことを指している。具体的には「日本の未来へ標準を合わせ、そこに現れてくる新しい産業の本質を丁寧につかみとろうという提案」をすることに目的があるそうだ。確かに飛行機に取った場合、低空飛行でしかわからないものがある。違う視点でみれば新しい視界が開ける・・。なかなか面白い視点だ。

序論で著者は「今の時代はどういう時代なのか?」について考察している。

今の時代は「わたしたち」の時代になったのだそうだ。80年代あたりでは「わたし」探しに躍起になり、「わたし」が主語の時代であったが、今は環境問題、感染症など地球全体で解決しなければならない事項も増え、「わたしたち」を主語としてあらゆる運動が行われている。したがって未来についてデザインしようとすれば、「わたしたち」を主語にして考える必要があるというわけだ。

いま私たちの世界は「遊動の時代」に入った。現在、1年で実に14億6万人にのぼる人々が国境をまたいで移動している。コロナで停滞はしたものの、この遊動性はすでに常態化しているといっていい。そんな中、日本は工業国としての過去の成功体験にすがっていてはだめで、早く観光分野で本気の取り組みをする必要がある。

それは「お・も・て・な・し」のような抽象的でわかりにくいものではく、「価値を見立てていく仕事」を推進しなければならない。今観光地や自然豊かな地域は、中国、シンガポールあたりの資本が雪崩のように押し寄せているが、明らかに後塵を拝しているわけだ。観光資源=未来資源という視点がこれからの未来を豊かにするという視点をもった活動がもちろんないわけではない。外務省「JAPAN HOUSE」プロジェクトなどがその一例だ。
著者もここに関与してきている。


著者は観光において特に「ホテル」「交通機関」を重視しているのだが、面白い!と思ったのが「半島航空」プロジェクト! 

なんと海上自衛隊の海難救助艇「US―1」の観光利用を考えている。海に着水できるこの機種で全国の半島を巡ろうというものだ。この機種がつかえれば滑走路もいらない。小さな漁港が出入り口になって、新しい観光資源をつくれるのでは?というものだ。正直あっけにとられる発想といっていいだろう。

ホテルもその理想形をスリランカの建築家ジェフリー・バウなど、東南アジアの「自然と一体となったホテル」である「ヘリタンス・カンダラマ」やバリ島の「ジ・オベロイ・バリ」等を参考に構想を重ねている。新しい視点の宝庫は実はアジアに点在しているのだ。

日本は明治維新後、あまりに西欧に注目するあまり、豊かなアジア全体を視野に入れた未来ヴィジョンを描いてこなかった。それが日本にとってかなりマイナスに作用していることも指摘しているが、俺もアジアをめぐりながらその豊かさや素晴らしさを「上から目線で」みてしまっている日本人の多いことにいつも残念な気持ちがある。

日本のラグジュアリーとは何か?

この問いに対し、著者は「日本人の価値の見立て」を中心に考察している。先頭に来るのが「自然への畏怖」。コンクリートで自然を捻じ曲げずに自然の力を呼び込むデザインをすること!

その視点の次に「内と外」。屋外と屋内が融通する居住性の追求だ。その好例として鹿児島の「TENKU」、三重県の「アムネム」、石川県の「べにや無何有」が紹介されていた。そのほかにも「安息のかたち」「隅とへり」など建築家らしい視点で考察が展開していた。

実際、「石川県は近いし行ってみようかな?」という気分になった。日本の可能性は観光資源にあり!は正しいと思うし、考えると楽しいことだと思う。


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