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まあ太のぼうけん その12節

 まあ太は小舟に乗って流れる雲や海鳥たちを眺めておりました。ゴリラはたばこをくわえ、ゆっくりとのんびりと舟をこいでいます。カラス天狗は空を飛びながら腹を出して昼寝をしており、犬はしっぽで魚を釣っています。

 まあ太はとにかく何か言いたかったのですが自動車にはねられた時より体が動きません。
動かないので色々な事を考えました鬼のこと、そしてきっとこの3人が僕を助けてくれたこと。
 嗚呼。自分はこの3人がいたおかげで生まれて初めて絶望というものを知りそして救われたのだなぁということ。そして同時に洞穴の中に散らばっていた骨たちの遠く誰にも伝わらなかった心を思うと少し苦しい気持ちになるのでした。
 まあ太は感謝の気持ちを示そうと、顔を上げ余力を振り絞って「よくやった。」と言うと、3人は黙ってまあ太をつかんで海に放り出しました。

 舟が出発した賢者の街の岬に着いた時、そこにはもう老人の姿はありませんでした。ゴリラが小舟を元にあった場所に戻し、こんな姿ではあるが、何となくだけどあの老人に心の中で礼を言ってまあ太たちはその場を去りました。ゴリラは黙ってまあ太を肩車しました。

賢者の街を通る時も、勇者の村を過ぎる時もまあ太は何かが吹っ切れた気がして威風堂々みんなに肩を貸されながら道の真ん中をずんずん進んでいきました。
そんなまあ太を見て、だれやそれやがぶつぶつと何かをつぶやいているのがわかりましたがそんなものは全く気になりません。

 とにかくそうやってあの里から離れたおばあさんのいた団子屋さんまでやって来ました。

まあ太のミイラみたいな姿を見て、おばあさんが2本しかない歯を見せて「いひひ。」と笑いながら言いました。
「どうだや。ええ嫁コは見つかったきゃ?」
と曲がった腰でまあ太に近づき、みんなに聞こえるような声でそう言いました。
 まあ太は誰もそんな事言ってないのに何で知ってるんだ。さては与太話していた犬だなあいつ余計な事ばかり言いやがって。と思っていると、
「ほうか。そんならうちの孫連れて行け。」とまた二本の歯を見せてわしゃわしゃと笑いました。
 娘さんはそんなおばあさんの話を聞いてカラス天狗に持ってきたお茶をひっくり返しながら「そんな事急に言われてもいい迷惑だ!このオイボレ!」とガチギレ気味でおばあさんに食って掛かっておりました。こう言う場合、外野が騒いで上手くいかなかったことはたくさんあります。まあ太はとにかく気を失ったふりをして何とかその場をやり過ごしたのでした。

 このおばあさんと孫の娘さんは、実は月から来た天女の子孫でまあ太の8代あとの子孫が月と地球との全面戦争を引き起こしたと言うのはこの時点ではまだ誰も知るよしもありませんでした。

3人はまあ太の傷を癒そうと猿の温泉宿に立ち寄る事にしました。お湯に浸かったりおいしいものを食べたりしているうちに、まあ太の体はだいぶ具合が良くなってきました。そんな楽しい日々のなかでも、カラス天狗だけは「大体幸せというものは多様性のあるものだし、結婚が人生最大のイベントだと思ったらそれは大きな間違いだ。」というような事を延々とまあ太に言って聞かせるのでした。

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