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まあ太のぼうけん その3

 まあ太が気がつくと、大犬の背中の上で自分が横たわっているのに気がつきました。
まあ太のからだは以前自動車にぶつかった時に出た血液と、犬の体から乗り移ったノミ達がつけた穴、そのかゆみでひっかいた傷などがごちゃ混ぜになっており、とにかくかゆくて仕方ありません。

 現在の状況に少々慣れてきたまあ太は、犬にこう尋ねました。「今どのへんだや。」
 するとあるじが覚醒したことに気がついていたが、気を使って静かに歩いていた大犬が「もうすぐ温泉宿につきますよ。」とさらりと言いました。
「温泉!」と聞いてまあ太は痛みも忘れ飛び上がって背中からずり落ちそうになりました。
何せ温泉に行くのは3年半ぶりだったからです。
あの頃はおっとうもいておっ母も病気ではなくて、一緒にピンポンやったりひっくり返ったりしていたなぁ。と少々景色がぼやけて鼻水が出かかった頃たくさんのあかりと音楽が聞こえてきました。

 温泉街はとても賑わっておりました。たくさんのさる達が店の呼び込みをしたり、手をたたいたり肩を組んで、ぎゃおぎゃおとやっております。
「ここはさるの温泉のようだけど、入ってもいいのかなぁ。」とあたりを見回しながらまあ太が言いました。
「もちろんですよ。」近くで呼び込みをしていた小柄なさるが高い声で言いました。
「鹿だって熊だって来ますよ。だから人間だって入っていいのです。」そこまで言うと小柄なさるは目で合図を送り、それを待っていた無数の猿たちは犬とまあ太を担ぎ上げ胴上げをしながら温泉宿のひとつに連れて行ってしまいました。
 なんだかもみくちゃになって、気がつくとまあ太はフンドシ一枚になっていました。犬はもちろん最初からはだかです。とりあえずお湯に浸かる前に、せっけんで体をゴシゴシ洗いそれから犬もしっかり洗ってやるとまあ太はすべりやすいタイルの上を全速力で走り抜け岩場から回転してそのまま温泉に突っ込みました。

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