まあ太のぼうけん はじまり
むかしむかし。信濃の国にまあ太という男の子がおりました。
九代さかのぼってご先祖の「マキャベリ太郎」の「マ」の字を取ってまあ太です。
まあ太はわらぶき屋根の家に住んでおりました。絵本のむかし話によく出てくるようなやつです。
小型の太陽光発電機のあみこまれたわらぶき屋根の家はまあ太の時代ではごく当たり前のものです。
リビングの真ん中にはいろりがひとつ。部屋の隅には化石のような古びたデスクトップのパソコンがひとつ。家の広い入り口には台所があり、リビングの奥には寝室がひとつの簡単な間取りです。
たいていの家はこれに地下室がつきます。
そこに病気のおっ母とふたりで暮らしておりました。
まあ太は14歳になり、結婚を考えるようになりました。
ひとりで考えていてもなかなかいい知恵が浮かばなかったものですから、食事の時にでもおっ母に話してみようかな。と思い始めましたが結局のところまあ太の心の中では何も進展せず、それからしばらくが経ちました。
ある日の昼下がり、まあ太とおっ母は2人で昼飯を食べておりました。野菜炒めか何かです。
おっ母はまあ太が、最近なんとなく考え事をしているな。と思ってはいたのですが、なにも尋ねたりはしませんでした。
実際のところおっ母の読みは当たっているのですけれどこれくらいの年齢は難しいものです。
すると突然まあ太が深くため息をつき、真横を向きながらほおづえをついて「おらー。結婚してえなぁ。」とひとりつぶやきました。
それを聞いておっ母は箸を置きました。
まあ太も箸を置きました。
「まあ太や。うちはこのとおり貧乏だから結婚する時に出す結納や、村の人に振る舞う祝い酒などが出せんで、自分で嫁を探さなあかん。」
と静かに真顔で答えました。
実際まあ太の家はそんなに裕福ではないのです。
まあ太は病気のおっ母をひとりで置いていくわけにはいかないと思いましたが
「そんならちょっと行ってくるわ。」と、ここはおっ母をたてて元気に言いました。
するとおっ母は何かにうなずき、外へ出て残雪をかき分けながら物置にしまってあった革製のブーツと鉄の鋲のついたベルトをまあ太に渡し、あまりものでそば団子をこしらえ、まあ太に持たせました。
おっ母は「おっとうと知り合ったのは南東の方角だから南東へ行きなさい。」とだけ告げ、速攻でブーツをきれいにしてまあ太を見送りました。
寒さも終わる4月の初め。
まあ太を見送ったおっ母はやれやれと思いながらもまあ太が生まれた日のことを思い出し「フフフ。」と家の中で小躍りしました。
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