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藤沢周平を読む

「蟬しぐれ」 
 読後爽やかな作品であった。同じ時代小説でも、山本周五郎とは異なった端正な文体で、ストーリーの展開もみごとである。主人公牧文四郎の若き頃から中年に至るまでの、親しい仲間との交流、実らぬ恋、藩内の騒動、剣の立ち合いなどさまざまな要素を盛り込み、無駄や乱れなくまとまっている。全体として、静かだが叙情に満ちたエンターテイメントの時代小説として、完成された一級の傑作である。周五郎には人間心理を分析した粘りつくようなしつこさがあるが、藤沢周平にはそれがない。そこが魅力なのであろう。

「三屋清左衛門残日録」
 家督を譲り隠居した清左衛門の老いの日々の暮らしと心境をいぶし銀のような整った文章で描いている。江戸時代の武士の話だが、隠居した老いの心境は現代に通じるものがある。藤沢周平文学の独特の味わいがあり、みごとである。北大路欣也主演でテレビドラマ化されているが、原作に忠実にストーリーが作られており、いい作品に仕上がっている。

「用心棒日月抄」
 
許嫁の父親を斬って脱藩し、江戸で用心棒の仕事を請け負いながらその日暮らしをしている浪人の物語である。赤穂浪討ち入りの事件を背景にして、国元から送られてくる刺客との斬り合いなどミステリアスな要素を秘めて、上級のエンタテイメント作品になっている。藤沢周平の特徴があふれた一冊だ。

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