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本をとおして「思いやり」の種を植える~クリス・コルファー

現実逃避だけではなく

こちらの記事でご紹介したように、クリス・コルファーさんは、読書や執筆によって「想像力」を働かせ、自分の世界を持つことが大切だと、くり返しおっしゃっています。
実際、ご自身もそのようにして、理不尽な現実から幼い心を守ってこられました。

しかし、ファンタジー小説の力というのは、それだけにとどまらないことを述べられています。

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「種」を植える使命

クリス:僕の考えでは、フィクションの目的とは、現実逃避をさせるとともに、人々の心の中に無意識のうちに「分別」と「思いやり」という種を植えることにあります。
それが、グリム兄弟やシャルル・ペロー(『赤ずきん』『長靴をはいた猫』などの著者)が持っていた、たった一つの使命だったと思うのです。

ークリス・コルファー 2019.10.15  Advocate.com インタビューより

In my opinion, the purpose of fiction, besides providing an escape, is to subconsciously plant seeds of reason and compassion in people’s minds. That was the sole mission of the Brothers Grimm and Charles Perrault.

たしかに、「分別」と「思いやり」をしっかり持っている人ならば、いじめや差別で他人を傷つけることはしないでしょう。

▲ 上の記事のように、クリスさんは、少年時代にいじめにあい、仕事においてもゲイだからと差別されてきました。
そして現在も、同じ思いをしている大勢の子どもたちを支えていらっしゃいます。
それだけに、この「分別」と「思いやり」の必要性を、誰よりも感じていらっしゃるのだと思います。

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「想像力」を育て、思いやりを

そうした「種」を植えることこそ、児童文学作家の使命であるととらえているクリスさんですが、それでは、ファンタジー小説によって、どのように「思いやり」を持てるようにするのでしょうか。

クリス:「想像力」を刺激してあげるのは、最も偉大なことの一つであり、来たる次世代に贈ることのできる最高の自衛策だと考えています。
なぜなら、もっと皆に「思いやり」と「好奇心」を持たせることができれば、世界は正しい軌道を進んでいけると思うからです。

ー クリス・コルファー 2019.11.12 Impact Theory

人の気持ちや痛みを思いやるには「想像力」が欠かせませんし、「想像力」から生まれる「好奇心」があれば、自分のことだけではなく他人や周りの世界に目を向けることができるでしょう。

著書『ザ・ランド・オブ・ストーリーズ』は、まさにクリスさんの想像力の結晶で、大人の私でも視野が広がり、ものの見方が変わるのを感じました。
この夢のような壮大な冒険物語の中で、子どもたちの「想像力」そして「好奇心」は、大いに刺激されるに違いありません。

▼ クリス・コルファーさん。

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また、苦しんでいる人、理解されない人たちの内面が丁寧に描かれており、たとえそれが「悪役」とされる人物だったとしても、読者はその心情に寄り添うことになります。
物語の中でこうした体験をすることで、現実世界で皆から否定されている人に対しても、その背景や気持ちに思いをはせることができるようになるでしょう。

世界のため、未来のために

『ザ・ランド・オブ・ストーリーズ』に続く新シリーズ「A Tale Of Magic」(2021.12月に日本語版『魔法ものがたり』として発売)を書き始めるとき、クリスさんは、当時の社会情勢に非常に危機感を抱かれたそうです。

クリス:僕は、「A Tale Of Magic」を、ある意味、独特なものにしようと決めた。この本によって、世界に「明るさ」や「思いやり」を取り戻せるように努力しなくては、と感じたんだ。
それは、僕が子どもの本を書くのを愛してやまない理由でもあるんだ。

もし、子どもたちに「思いやり」や「包容力」や「真実を重んじること」を教えることができたなら、彼らは、よりいっそう成熟した大人になるだろう。

ー クリス・コルファー 2020.2.14 シャー・マーゴリスさんとの対談
https://youtu.be/pR_b2IA34TE

世界に「明るさ」と「思いやり」を取り戻し、
子どもたちに「思いやり」や「包容力」や「真実を重んじること」を教える本。
そんな物語を書くために、クリスさんは今までとは比べ物にならないくらい大変な思いをされたそうです。

この「よりいっそう成熟した大人になるだろう」という言葉に、「子どもたちが心豊かに育ち、幸せな世界に生きていけるように」というクリスさんの願いを感じずにはいられません。

本の力というのは、「世界」も「未来」も変えられる可能性があるのですね。

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クリスさんが、子どもたちのために心血を注がれた、「A Tale Of Magic」。一日も早く、日本語版が発刊されることを祈っております。

※2021年12月、日本語版発売

そして、せめてクリスさんの思いの一端だけでも、今後の記事でご紹介できたらと思います。

▼ 次回の記事です。